忍び寄る事業閉鎖、倒産の足音

今から1年半ぐらい前、私はこのブログでこれからコロナ倒産が吹き荒れると申し上げました。ものの見事に外れました。2020年のコロナ倒産はわずか842件でコロナ以外の理由を含めた全倒産件数は1990年来の低水準でした。後出しじゃんけんのようですが、倒産件数が異様に少なかったのは各種支援金によるところが大きく、一部業種は事業活動をせず、従業員も最小限にして息をひそめてひっそりとしていた、というところかと思います。

2021年になるともっと様相が変わってきます。引き続き厳しい業種と繁忙期を迎えた業種に二分されました。コロナの周期の合間で我慢の限界を超えた消費者の爆買いなども経営者の判断を惑わす結果になりました。21年のコロナ倒産は1770件で20年の2.1倍に増えています。一方、21年の全倒産件数は6030件で1964年以来の低水準となりました。一体全体、世の中の企業経営は好調なのでしょうか、不調なのでしょうか? 統計のこのちぐはぐ感が22年の行方を占うとみています。

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思い出してほしいのですが、バブル崩壊後、90年代は大企業の倒産が相次ぎましたが、民事再生法などを通じてなんとなく生き返る会社も多数存在しました。ゾンビ企業と言われたところです。92年から10年間は年間倒産件数が1-1.5万件と急増します。しかし、当時の倒産は80年代までの放漫経営のツケを払った大、中企業も目立ちました。いわゆるバブルの後始末が自分で処理できないのが最大の理由です。

では2022年のポストコロナ型の倒産/廃業はどんな形になるのでしょうか? ズバリ、時代のニーズから外れた中小企業の淘汰の時代とみています。この2年間、一部の小規模企業や自営業では支援金の方が営業するより良かったというところもあったのが事実です。いわゆる経営の人工呼吸器です。ところがコロナが終わればこの呼吸器は外されます。さて、自立できるでしょうか?

なぜ、悲観論が先行するかといえば2年の間に世の中の景色がすっかり変わったからです。飲み会はなくてもよい、外食は的を絞り、お好み食堂的な居酒屋は敬遠、買い物も教育もオンライン、リモートワークならよそ行きの洋服もいらない、物価が上がっているからお財布は自己防衛…といった具合です。その間、やれDXだ、IT化に効率化だとビジネスのインフラもすっかり変貌してきました。

自営業者も問題を抱えます。「もうそろそろ引退」という時期が迫っていた経営者が多かったのです。またこの2年、我慢に我慢を重ねていた経営者も多い中、それが平常に戻った時、すぐに客足が戻らないと精神的にガクッとなりやすいものです。

倒産とは借入金を約定通り払えないなど債務の不履行を指します。もしも自営業者で借入金がないが、もう事業継続ができない場合は自主廃業です。一部自営業者が経営の継続を断念する理由は諸物価の高騰によるコスト圧迫もありますが、最大の難点は人材が見つからない点です。特に若者に不人気なエントリー系ジョブ(飲食、配達など)は大手が無茶な給与水準で争奪戦を繰り広げているため、自営業者が勝てるような状況にはありません。

金融機関は政府からのあと押しもあり、融資姿勢を緩和してきました。その結果、企業の有利子負債額はリーマンショックを超える349兆円と史上最高水準にあります。海外のように移民によって人口が増え、人口ピラミッドの形状も良ければよいのですが、日本は人口減、鎖国、人口ピラミッドは逆三角形型となれば国内経済を活性化してもどうやって需要を喚起するのか、というそもそも論があるのです。

数か月前、私は現在の為替はよくない円安と申し上げました。主要10カ国の対ドルのパフォーマンスは9カ国がプラス、唯一、円だけが安くなりました。日経は利上げ機運の高まった米ドルが高くなると報じていますが、必ずしも断言できないかもしれません。何故かといえば世界を浮遊するマネーがもはや金利ベースだけで判断してないからです。その通貨を買って何を期待するかという尺度で考えた時、国債ではなく株式など違う金融商品も考えられます。例えば資源高で恩恵を受ける通貨の魅力増大など視点が明らかに変わってきています。その中で円は残念ながら魅力が少ない状況です。ミスター円こと榊原英資氏は今年暮れから来年にかけ1ドル130円を想定しています。

円が弱いのはいろいろな意味で不都合です。輸入物価高をもたらすことが最大の理由。ただそんな目先のことよりも国力という意味で海外物価水準との差異が大きくなり、日本企業の海外企業による買収リスクなど日本がバーゲンハンターに荒らされる危険性が高まります。

コロナ禍の爆発消費は異例の出来事であり、仮に終息宣言でも出れば「Back to Normal」でむしろ厳しい現実を突きつけられることになるとみています。

日本には会社が約380万社あり、大雑把にほぼ半分が法人、半分が自営業者です。その数はこの20年で1/4ぐらい減っているのです。多くは自営業者の廃業で今後10年であと数十万社が消えると見られています。そうすると商業ビルのテナントは入りません。改修工事も減ります。

ただ、私はこの淘汰は必要不可欠、むしろ10年後の日本が再生しやすい構造改革につながるとみています。街の食堂はなくなるし、東大阪も蒲田の街工場も厳しい、家内工業で細々とやっていたところは絶滅種になるでしょう。ただ、逆にゾンビにも幽霊でもない「再起動」が日本の構造改革を推し進める最後の手段のようにも感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月27日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。