テレビ局の「占領体制」を終わらせよう

池田 信夫

総務省は24日の有識者会議で、マスメディア集中排除原則の見直しを検討する方向を打ち出した。これは去年も電波シンポジウムで議論したテーマである。

集中排除原則がテレビのネット配信を阻害する

これについては私が2017年に規制改革推進会議に意見書を出したが、民放連の圧力でお蔵入りになってしまった。その一部を引用しよう。

集中排除原則は、基幹放送の業務を行おうとする者が複数のメディアに対する支配関係をもってはならないと定めている。ここで支配関係とは議決権の保有を意味し、特に在京キー局が地方民放の株式を1/3を超えて保有できない

このため県域を超えた放送ができず、ローカル広告しか収入のない地方民放は慢性的に赤字になり、その赤字をキー局が電波料(電波利用料とは違う)で補填している。これは今では番組を制作しないで補助金をもらう地方民放の経営劣化を招いている。

集中排除原則の目的は、言論の多様性を確保することだったが、今は地方民放が独自に制作している番組は1割に満たず、むしろ多様性を阻害している。

放送番組のネット配信を阻害しているのも集中排除原則である。キー局が全国にネット配信しようとしても、地方民放が県域ごとに著作権をもっているので、在京キー局は関東エリアにしか配信できない。ネット配信業者が放送をIP再送信する場合も、県域ごとに(ローカル広告だけ違う)別の番組を配信しなければならない。

著作権法については昨年の改正で、県域を超えたネット配信が可能になったが、キー局が地方民放を連結子会社にすれば著作権も一体化され、世界にネット配信できるようになる。

県域免許はGHQのつくった「戦後レジーム」

これは戦後体制の見直しにつながる。県域免許は1947年にGHQが決めたものだ。国営の日本放送協会が戦争に協力する放送を行ったため、言論の多様性を保障するために各県ごとに民間業者に免許を与えることになった。

同じような地方分権化は県警本部や教育委員会でも行われたが、今は形骸化している。ところが県域放送だけは電波料がローカル民放の利権になったため、手がつけられない。

たとえば2007年に関西テレビの「あるある大事典」の事件に関して番組単価を調査した報告書によれば、スポンサーの払う広告費のほぼ半分が地方局の電波料に取られている。キー局にとっては、単なる中継局にすぎない地方民放の赤字を補填していることが経営の重荷になっている。

国境のないインターネットに県境をつくる時代錯誤の規制を続けているうちに、日本のテレビ局は動画ビジネスに立ち後れ、2周遅れになってしまった。世界のメディア産業はグローバルに集約され、インフラを問わず世界にネット配信するネットフリックスやアマゾンプライムの時代になっている。

地上波民放は衰退産業なので産業として再編し、競争力のあるコンテンツ制作部門を水平分離してグローバル展開する必要があるが、資本規制が改革を阻害している。通信産業や電機産業が放送に参入できない原因も、この集中排除原則である。

メディア産業の再編・合理化のために、まず集中排除原則を撤廃し、経営合理化を進めるべきだ。県域免許を廃止することは政治的に困難だが、キー局が系列局を買収すれば同じ効果がある。キー局はローカル局の統合を進めたいと考えているので、今回の動きには強く反対しないだろう。

これまでは民放連の圧倒的多数だったローカル局が障害だったが、そんなことを言っていると民放全体が沈没する。放送を県域で分断する占領体制を終わらせる「戦後レジームの清算」が必要なのだ。