黒坂岳央(くろさか たけを)です。
日清食品がカップラーメンの値上げをしたことが大きな話題を呼んでいる。同社に限らず、多くの企業が商品の値上げに踏み切った。これまで原価高騰を販売価格に転嫁しないよう、努力を続けた企業側も限界を迎えている。
しかし、次々と物価があがっているのに、給料の値上げの話は聞こえてこない。米国では給料をあげても人手不足となっており、ニューヨークにあるそば屋の店員の時給が50ドルを超えたところも出ている状態で、我が国とは対象的だ。その理由をいくつか取り上げたい。
日本企業の収益性が低い
日本の会社のほとんどは中小企業であり、全体の割合の99.7%を占めている。また、日本の労働者の約7割が中小企業で働いている。
そんな日本の労働力のROE(Return On Equity-企業収益性)は、先進国の中でも低い水準で低迷している。QUICK・ファクトセットの直近のデータによると、米国13%台、欧州7%台に対して日本は5%台となっている。企業の収益性が低い中で売価を上げても、原価の高まりに吸収されてしまい従業員への給与還元までまわってこないのだ。
政府が強制的に賃上げを要求すれば、弱い企業が潰れたり企業が雇用を控えるので失業者が増えてしまうリスクをはらんでいる。「無い袖は振れない」という言葉通りお金がなければ払えない。従業員の賃上げには、企業の収益性アップが必要なのだ。
企業の収益性を上げる2つの方法
それでは、企業の収益性をアップさせるにはどうすればよいのだろうか?
まずは付加価値の高いビジネスをすることだ。我が国は昭和時代までは「モノづくり日本」として、大量生産で質の高い商品を販売するモデルで成長した。だが、中国や韓国、台湾など台頭するアジア勢に押し負けているのが実情と言えよう。
付加価値の高いビジネスといえば、ITや金融などがその筆頭であろう。たとえばアップルのROEは驚異の70%、日本企業平均の10倍以上である。また、仮想通貨取引所のバイナンスは、人類史上最速で成長した企業となっている。収益性の高い業態へと転換が求められる局面ではないだろうか。
そして2つ目は労働生産性を高めることだ。日本企業の労働生産性は諸外国に比べて低いことで知られている。IT化が進まず、ムダなオペレーションが足を引く結果となっているのだが、スキルとしてのビジネスオペレーション力を経営者が身につける必要があるだろう。
地方ではFAXでしか発注を受け付けていなかったり、営業活動を飛び込み対面しかしていない企業も多い。また、出退勤管理を紙で運用していたり、口語でのコミュニケーションが主体となっているところも多い。収益性の低い企業ほど、DXが必要なのに皮肉なことにその逆が起きている。これには経営者の意識とスキルの向上が必要だろう。
収益性の低い企業からは仕事も人もいなくなる
筆者は将来的に収益性の低い企業は仕事も失い、働いてくれる従業員にも困る未来がやってくるのでは? と思っている。その理由を取り上げたい。
まず、収益性の低い企業は給料が低い状態で留まる。今後長期化が見込まれるインフレに対応できず、上げたくても上げることができない。今後、労働人口は確実に減少する一方となるため、会社で働いてくれるビジネスマンの取り合いに相対的に押し負ける。昨今の副業ブームの波に乗り、将来性に不安を覚えた行動力のある優秀な社員は副業で稼ぐ力を得てフリーで独立したり、高給のオファーを提示する他社へ転職することもあるだろう。
いま現時点で働いてくれている人がいて、どうにか会社がまわっていたとしても収益性の改善がなければ、大局では厳しい展開になると思えてしまう。
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悲壮感のある展開で恐縮なのだが、ある意味でこれはチャンスでもある。筆者は会社経営をする立場だが、常に収益性を高めることを考えてビジネスをしてきた。短期的には苦しい局面も多かったが、ありがたいことに大局ではポジティブな結果を出せている。しかし、起業当初のやり方を続けていたら今の結果と自分はないと断言できる。つまり、危機感に育てられたといえる。
また、会社で働く従業員も「自分の付加価値を高めて、高給を稼ぐ力を得ることが必要」と実感すれば、スキル向上などに努力をすることになり、やはりこちらもポジティブな結果が期待できるはずだ。ビジネスマンのスキルの底上げが起きることで、日本経済全体の活性化効果もあるだろう。実際、日本においても先端のテクノロジー業界や、ハイスキル職は高給オファーを出しても優秀な人材を取り合っている状況だ。
ピンチはチャンス、危機感がその脱却の一歩になると信じている。
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