いきなりステーキを展開するペッパーフードサービスの代表取締役社長の一瀬邦夫さんによる「作業するだけで給料をもらえると思うのは大間違い」発言がネット上で波紋・批判を呼んでいます。どうやら、社内報で発言したのです。
炎上の怖さ
個人的には、この会社。2017年から一気に出店を展開。過剰出店で経営が傾き、不採算部門を整理し、週刊文春に「エスフーズさんにいきなりステーキの商標権を担保に20億借りている」というニュースのほうを注目していたのですが、この炎上案件には驚きました。
なぜなら、自分に向けて発言されたわけではない言葉、関係のない自分に発せられたわけではない言葉が、人々の感情を逆なでしてしまい、反発を生んでしまうというネットの怖さが明らかになっているからです。
「他人の会社の社長が言った事でしょ」というわけにはいかないようです。批判してくなった意図や詳細をよく知らない私は何も言えませんが、ある発言が他人に「自分事」として捉えられてしまうと炎上する、これがネット世界の特徴かもしれません。とはいえ、自分にとって「ブラック」と感じられたり、「おかしい」と感じられたりする発言に触れた時に、過去の自分の心の痛みを思い出し、人は反発するのも自然なのかもしれません。何とも言えません。
ただ、今回は、原文と前後の文脈を確認し、切り取り前の状態で判断しなくてはいけないと思います。
詳細は?文脈は?
その問題の「社内報」を見てみましょう。
要旨を抽出すれば
- 大規模なクレームが起きている
- 店舗で作業するだけで給料をもらうのは大間違え
- ネガティブな人は自己改革してください
ということになります。「店舗で作業するだけで給料をもらうのは大間違え」というのは、まあそうだろう・・・としか思えませんでした。労働の観点からはちょっと要求高めだなあと思いますが、ネットで批判されているように「ブラック企業」とは言えないかなと思ってしまいました。
アルバイトであっても、社員であっても、役割を果たす、期待を果たすよう努力すべきだというのは労働者の倫理観として当然だと思うからです。作業に見合うだけの賃金や職場環境を経営者が整備することは大前提ですが。
しかも、機密情報の扱いのものです。対外的に表明・宣言したものではありません。それが批判を受けるというのはなかなか厳しいものがあります。
会社社長が従業員の前で、その哲学を訓示したりするようなものってよくありますよね?その一種のようにも感じられます。
いきなりステーキの経営分析
いきなりステーキさんの経営を見ていきましょう。「2021年12月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」によると株式会社ペッパーフードサービス(英: PEPPER FOOD SERVICE CO.,LTD)の第3四半期累計期間では、
- 【会社】:売上高は13,747百万円(前年同期比44.0%減)、営業損失は1,253百万円(前年同期は3,786百万円の営業損失)、経常損失は170百万円(前年同期は3,659百万円の経常損失)、四半期純損失は197百万円(前年同期は3,304百万円の四半期純損失)
- 【いきなりステーキ】:売上高は12,714百万円(前年同期比39.3%減)、セグメント利益は95百万円(前年同期は1,805百万円のセグメント損失)
と回復基調のようです。それはそのはず
- 社員183人の希望退職を実施
- ステーキメニューの大幅値下げ
- 比較的収益性が高かった「ペッパーランチ」事業を投資ファンドに約85億円で売却
- 不採算店の整理
- キッチンカーサービス
- モバイル推進
などを進めてきたからです。詳しくは2021年8月に公表された「中期経営計画の進捗及び見直しに関するお知らせ」でも、経営改革をさらに進めてきたことが明らかになっています。
流石の経営というところではないでしょうか。
経営者には哲学があるわけで・・・
確かに、この一瀬邦夫社長、日本屈指のコックを目指して修業。飲食店経営者として独立し、「いきなり! ステーキ」で成功させた人でもあります。マザース、東京証券取引所に上場、2017年には1部上場という実績をお持ちの、立志伝中の人といっても過言ではありません。ご自身が磨きあげた哲学があって凄い人だと率直に感じます。
一方、SNSでは、発言が他人の逆鱗に触れるケースが激増しています。少しでも他人が大事にしている価値観や「地雷」と呼ばれる感情のフックを踏んでしまうと「炎上」してしまう現実があります。
3つのポイントがあります。
- それぞれのコミュニティの中の話が外部に漏れて、ネット界隈のネタになる
- 怒りのツイートをする他人相手に対して言ったわけでもないのに、そう捉えられ、正義の鉄槌を下される
- 文脈や前後関係をきちんと読んで、さらに背景や会社の事情を知って発言してくれる人はほぼいない
いきなりさんのネタは、多くの人に曲解されたり、ネタとして消費されてしまってしまいました。社内報は社外秘であり、機密情報なのでとりあえずオープンにするのはやめた方がよさそうです。誰が見ているかはわかりませんので。
(後編に続く)