「即レスは正義」と信じる人が知らない2つの落とし穴

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

SNSなどで「即レスは正義だ」という趣旨の投稿をよく見る。確かにビジネスコミュニケーションを取る上では、極端に反応が遅い人よりは遥かにいいのは間違いない。相手からの返答があまりに遅いことで「こちらのメッセージが不達なのでは?」「相手はお断りをするつもりで、今その理由を考えているのでは?」と不安になってしまう人もいるはずだ。

Igor Kutyaev/iStock

しかし、レスが早ければ良い局面もあれば、そうでない場合もある。重要なのは場面ごとにそれを切り分けることだろう。個人的な考えを論考したい。

即レスが活きる局面

即レスが活きる局面はいくつかある。

まずはクレーム対応である。筆者は過去にコールセンター勤務でほぼ毎日クレーム対応をしていたのでよく理解できるのだが、クレーム対応は初速はとにかく早い方がいい。クレームを出した本人にとってみれば、相手からの反応が遅いというだけで、「自分はおざなりな対応を受けている!」と余計に怒りがヒートアップしてしまう。

まずは相手の怒りの感情に共感し、逃げずにちゃんとフォローするつもりなので対応方法を考える時間がほしい旨を返せば「相手はこちらの怒りを分かってくれた」と冷静に待ってくれることがほとんどだ。

そして意思決定者へのコミュニケーションの場合も返事が早いほうがいい。特にクライアントワークをする場合に、作業をする側はレスポンスが早い方がいいだろう。返事が遅いと「今、作業の進捗はどうなのか?」「早く決めて次の段取りを考えたいのに…」と意思決定者をイライラさせてしまう。

筆者は国内、海外の企業問わず英語力を活かした仕事のクライアントワークをしてきたが、報・連・相は当然として返事は早く出すようにしてきた。

そして「即レス」といっても、通知をONにしてスマホに張り付くような真似はいらない。相手からの返事は内容の緊急性にもよるが、早ければ6時間以内、最大でも24時間以内を期限とする対応で十分だろう。

即レスを意識しすぎると質が落ちる

だが、即レスは必ずしも万能ではなく、明らかにデメリットもある。

1つ目はコミュニケーションの質が低くなる傾向があることだ。早いレスポンスでも内容の質が低ければ逆効果になるのだ。

先日、自社ビジネスの拡大に伴って新しいオフィスを契約したのだが、その際にやり取りした不動産会社のビジネスマンはまさにこれだった。とにかく返事自体は早いのだが、こちらが複数質問を投げても、いくつも回答漏れがあったり、添付するといっていたファイルが抜けていたりした。こちらが「この質問についての回答はいかがでしょうか?」「添付ファイルが抜けているようなのでお願いできますか?」とフォローアップを余儀なくされれば、かえって非効率になってしまう。

特に時間を買うつもりで仕事を発注するクライアントワークにおいては、このように相手の時間を余計に奪い取る行為をすれば次回から仕事が来なくなってしまう。

速度ばかりを気にすると、その結果として必然的に質が落ちる傾向にあるのだ。これを理解しているため、筆者は相手に返事を出す時は、もう一度相手の送ってきた内容を読み直し、「自分は相手の質問に全て回答しているか?」などをチェックするようにしている。この作業には3分もかからない。「即レスで質が低い回答」にならないよう、質を落とさない工夫は必要である。

即レスを意識しすぎると集中力が落ちる

もう1つのデメリットは集中力が失われるというものだ。どちらかといえば、こちらの方が問題が大きい。

昨今ではマルチタスクの弊害が叫ばれるようになり、シングルタスクで集中力を取り戻すべきだという論調が広がりつつある。この意見には完全同意である。手だけ早く動いて、反射神経だけ高めても、浅いタスクを早く処理する能力ばかりが鍛えられるからだ。即レスを意識しすぎると「反応」としての仕事力はついても、「思考」する仕事ができなくなると思っている。

相手とのコミュニケーションをする際に、早く反応することに慣れてしまうと深い思考ができず、相手の発言の表面上だけをなぞって理解したつもりになり、抽象的な回答を送ってしまいがちだ。

たとえば、相手が仕事についての懸念を表明したら、「とにかくスピーディーにお詫びをしてこの場を収めよう」と考えて「今後は気をつけます」といった謝罪文を早く書く能力は鍛えられるかもしれない。だがそれだと課題は解決されないままだ。

この場合は再発防止策まで考えて「対策しましたので今後は同じ問題が起きません。安心してください」というところまで進めれば、相手も深く納得できるし、何より自分自身のためにもなる。

そして、単に慣れた手続きをなぞるだけの作業ではなく、本質的な課題や問題を解決するための仕事をするには集中力が必要だ。始終、相手からの連絡通知にビクビクするような状態に深い集中力は宿らない。筆者は返事は早い方なのだが、連絡通知はOFFにしている。相手からの返事を出すタイミングを一日2回と決めていて、それ以外は見ないようにしている。返事が来るたびに即対応していたら仕事にならないからだ。

「即レスは正義!」という理論は常に有効に機能するものではないのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。