「全国津々浦々」の官製談合

「全国津々浦々」という言葉がぴったり合うのが、近年の官製談合事件だ。

2月13日のニュースでは、沖縄県竹富町発注の公共工事(海底送水管更新工事)で同町長が秘密とすべき入札情報を業者側に漏えいしたとして、同町長と受注会社関係者ら複数の人物が官製談合防止法違反容疑等で逮捕された、と報じられた。

沖縄県竹富町役場
出典:Wikipediaより

漏洩先は「東京に本社を置くエネルギープラント会社」で、「6億7千万円余りで落札」、「開札調書によると、落札価格と最低制限価格の差がわずか千円だった。予定価格は7億3700万円」とのことである(沖縄タイムスの記事参照)。

具体的に何を漏洩したかはわからないが、最低制限価格に関連する情報であることは明らかだ。これまで何度も指摘したように、官製談合といっても業者間の談合を前提にするものではなく、官民間の癒着という意味での官製談合の事案である。

業者間の談合の実態があるのであれば、「落札価格と最低制限価格が極めて近似」するのではなく「落札価格と予定価格が極めて近似」するものである。もしかしたら談合崩れの結果としてこうなったのかもしれないが、いずれにしても典型的な談合の事件ではないことだけは確かである。

同記事は続けて、地元関係者によると、町長は町議時代から業者と親しく、「町長となってからも酒席を共にする様子が目撃されていた」といい、「捜査2課は官製談合容疑に加え、その見返りとして金銭や物品の授受が無かったかも慎重に調べる」としている。情報漏洩で得をするのは業者側であり、それだけだと発注者側にメリットがない。発注者側違反者の個人的利益を疑うのは当然の流れである。

地方自治体の規模からすれば7億円の工事というのは極めて大きいものである。海底送水管更新工事というものの難度がどの程度のものか分からないが、入札だけではなく工事全体のプロセスに当該業者が深く関わっていた可能性もある。

発注者側が十分に発注業務をコントロールできていない場合、競争入札という手続は発注者にとってリスク要因にもなり得る。もちろん競争入札という手続を採用した以上、この手続に反する行為は官製談合防止法が禁じる「入札等の公正を害すべき行為」になるのは明白である。

最低制限価格付近での落札だから被害はない、という反論があるのかもしれないが、特定の業者を不正な手段で秘密裏に優遇しているのであるから、やはり競争は歪められ、公正は害されているということになる。

そして2月14日、南富良野町が発注した道の駅などの再編整備事業工事発注をめぐり、業者に入札情報を漏らしたとして同町長が逮捕された、と報じられた。沖縄の次は北海道。まさに「全国津々浦々」での摘発だ。

こちらは業者側に予定価格に関する情報を漏えいした疑いだが、受注業者は予定価格の約98%で落札したという。こちらは、高い価格での落札なので、業者間に談合の関係があって(あるいはそもそも競争状態にはなく)、町長の関与は談合を容易にするための情報漏洩だったことが疑われる。

そうだとすると、沖縄のケースとは同じ「官製談合事件」であっても、競争に対する影響の出方は対照的だ。なお、報道によれば町長は関与を否定しているとのことである(2022年2月14日読売新聞ウェブ記事参照)。

この記事は以下の通り報じてもいる。

この入札を巡っては昨年6月中旬、町側に匿名の談合情報が寄せられ、入札を一度延期。入札参加資格がある24社はいずれも「談合の事実はない」と回答し、3日後に入札を行った。

業者にヒアリングすればほぼ確実に「やっていない」というに決まっている。だから大丈夫ということにはならないのだが、どこまで真剣に吟味したのか、マニュアルをなぞっただけなのではないか、今後の検証が注目される。

ある地方のある首長が危機意識を持たないほどに、あるいは持てないほどに入札の不正が「全国津々浦々」で蔓延している。発覚率はまだまだ低い状態にあるということか。それとも、「やめられないとまらない」事情があるのか。

二人の町長はともに直近の選挙では無投票で当選を決めているということである。緊張感のない政治的地位の継続は、コンプライアンスの弛緩をもたらすものなのか。あるいは多選の弊害か。