「日本人は幼稚化している」と喝破したのは先日逝去した石原慎太郎氏です。
毎年ながら平均寿命も健康寿命も延伸しています。令和2年の平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳、令和元年健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳。人生の一割は不健康さらには要介護状態ということになります。さらに言うと平均寿命は早死にした人を含めた平均なので、65歳まで生きられたなら、男女とも90歳かそれ以上生きる可能性が高くなります。
しかし特に100歳を超える百寿者は現在6万人を超えると見られていますが、正確な統計は無いものの自立かそれに近い人は1割居るかどうかと想われます。百歳の誕生日には総理大臣から表彰状と大きな銀杯(予算カットで年々小さくなっているとか)が贈られるのですが、それで祝杯を挙げられる状態の人はごく少ない。長寿は本当にめでたいのでしょうか。
さてつい数日前、ネットニュースで「卵泥棒恐竜は濡れ衣」という記事を見かけました。恐竜図鑑などでは鳥の巣のような恐竜の巣から卵を盗もうとしている、あるいは割って食べている姿で描かれてきたオビラプトル。じつはその卵は「自分の卵」だった、そして卵とともに発見された理由は「火山の噴火の中逃げることなく卵を護り続けて生き埋めになった」化石なのだと。
思わず掲載元のサイトにリンクをたどると、ハサミムシの話が。子供の頃石をひっくり返すとよくチョロチョロ出てきた黒い虫。時々尻のはさみをサソリのように振り上げて威嚇する。それは卵を護るため。そして母親は呑まず食わずで卵を護り、孵化すると、なんと子虫たちに自分を食わせて死ぬのだと。
そう言われるとカマキリの雄は交尾の後メスに食われるし、クモなども孵化した子グモに食われたりします。子供の頃見かけたカマキリは頭がもう食われて無いのに食われながら尻を振っていて、嬉しそうにすら見えたのを思い出します。
そしてさらにタコ。オスは交尾すると死に、メスは飲まず食わずで卵を護り、孵化すると間もなく命が尽きるのだと。
では人間は、日本人はどうでしょうか。近年毎週のように子供を虐待遺棄さらには殺したという報道。長寿といいながら2割は要介護者、要介護期間は平均5年を超えるといい、ヤングケアラーが問題になり始めたように盲目的延命の結果子孫に世話させ食いつぶす老人たち。
認知症は癌とともに「長生き病」で仕方ないとしても、食べることすら忘れても口に食べ物を突っ込まれ、はては管を突っ込んで無理やり栄養注入。盲目的に生きている、いや「生かされている」だけ、はたまた未来ある命を奪う、どちらも生命を軽んじているとしか思えません。
恐竜も、昆虫も、タコも、未来世代たる子供のために親は命を捧げ尽くすのに、日本人はどうでしょうか。我が親は私が何か親にプレゼントでもしようとしたときだったか、「子供が親のために在るのではない、親が子供のために在るのだ」と言ったと記憶しています。そして親ではなく次の世代のために尽くせと。
膨れ上がり続ける老人医療費、年金そして介護費。挙句に年金基金をアベノミクス株価吊り上げ工作に突っ込んで浪費。
「今だけ金だけ自分だけ」、今の利益をむさぼり面倒な問題は子孫にツケ先送りリボ払いの「三だけ主義」が蔓延した日本、新型コロナより精神を蝕む不道徳にこそ「まん防」が必要です。
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五十嵐 直敬
新西横浜街の医療ケア研究室代表。平成7年北里大学看護学部卒。保健師、看護師。大学病院から外来、訪問看護・在宅医療から介護サービスまで幅広い場で緩和ケアを実践、所長、施設長等を歴任。臨床の傍ら教育とコンサルに携わる。
【参考】
・石原慎太郎「死線を越えた人間のみが味わえる実感がある」 人間の一生とは、なんだ
・卵泥棒と蔑まれた恐竜は決死で子を守る親だった、オビラプトルの化石からわかった「親の愛」の真実(東洋経済オンライン)
・https://toyokeizai.net/articles/-/507781(掲載元・東洋経済)
・ハサミムシの母の最期はあまりにも壮絶で尊い 生まれてきたわが子にすべてを捧げて逝く(掲載元・東洋経済)
・タコの最期は涙なくしては語れないほどに尊い 雄も雌も子孫を残す瞬間のために命を捧げる(掲載元・東洋経済)
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