プーチンよりバイデンが心配なウクライナ情勢

ウクライナの問題については、ここのところ、メルマガで歴史も含めてかなり詳細な記事を何本も書いてきたが(「危ないのはプーチンよりもバイデン」、「建前でない独り言をつぶやいてみる」)、そのさわりをアゴラ読者のために提供しておこう。

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ウクライナ情勢はまことに危険な状況にある。なぜなら、プーチンは長期的な国家利益を考えて短期的な評判など気にせず的確に動いている。逆にバイデンは中間選挙しか考えてないから、難しい交渉などしたくないらしく、ロシアが軍事行動起こしたときに、非難すればいいとアリバイ作りだけ考えているのではないかと私は疑っている。そして、ウクライナはどうかといえば、いつもそうだが、何も考えてない。

私はプーチンは困った人だが、国家指導者としてはたいした物だと思う。あのガタガタになった国を立て直し、冷徹にロシア国家にとって有利なように行動している。自分の名声、面子、権力などへの配慮などみじんも感じない。

マスコミやSNSでの書き込みを観ていると、プーチンについて世界にとって困った人だというのは正しいのだが、ロシアにとっても困った人だと混同しているので、対処を誤りかねない。面子立てたくらいでプーチンは引き下がるはずないのである。そこが習近平とは違う。

そもそも、ウクライナについての正義はそれほど自明ではない。ウクライナ問題の本質は、欧米がソ連崩壊後の混乱に乗じてロシアに勝ちすぎたことにある。もちろん、旧東欧、旧ソ連の各国にはNATOやEUに入る自由はあるのだが、なにごとにも勝ちすぎると無理が生じる。

現在の秩序は、歴史的な文脈、地政学的な見地からロシアにとって厳しすぎだから、なんとかしたいというモティベーションは大きい。一方、ウクライナはつねに脳天気にNATOに入りたい、EUに入りたいという。

後先考えずにロシアの気に障ることばかりするのは、韓国が情緒的な反日を弄んで極東を混乱させているのに似ている。

ソ連が崩壊したとき、核兵器をどうするかが問題になった。核兵器はウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンにもあったが、この四か国が核保有国になられてはたまらないので、ロシアに一括管理してもらう方が世界にとってもベターだった。

だから、「核兵器はロシアが独占するが、米英露はウクライナの領土的統一と国境の不可侵を保証する」という内容の合意を結んだ。

また、ベーカー国務長官は、NATOを東に拡大することはないことを口頭だが約束したと言われる。しかし、その後のロシア経済の衰退の隙にEUもNATOも東欧を呑み込んだ。

そして、ウクライナにも食指を伸ばして工作し、親露政権を倒し、その後の政権はNATOやEU入りを望んでいる。また、ロシア人が住民が多く黒海艦隊の海軍基地のあるクリミア半島から将来はロシアを追い出そうという姿勢を見せた。そこで、ロシアはここに侵攻し住民投票を経て併合し、また、ドネツク地方などを事実上の支配下に置いた。

そこで、ロシア・ウクライナ・ドイツ・フランスの4カ国は、「ミンスク合意」を締結して、ウクライナはこれら地域の自治を認めることにしたが、それが履行されていないというのがロシアの言い分だ。

私は、そもそも、ウクライナをNATOやEUに加盟させるのは、やり過ぎだと思う。キューバ、メキシコ、カナダが中国との経済県や軍事同盟に入ったりすることをアメリカは許さないだろうし、日本だって釜山にロシア軍や中国軍がいるのをみたくない。

欧米だって、本気でウクライナをEUやNATOに加盟させることは考えてないと思うし、少しは、ロシアを安心させることも必要だ。そうでないと、ロシアは本当に侵攻する可能性がかなりあるし、その場合に、経済制裁はするだろうが、そんなものプーチンが怖れるとも思わない。むしろ世界のならず者との連携を深めるだろうからコストは大きい。

しかも、習近平が中国も台湾に侵攻しても大丈夫だという気を起こさせかねない。本来は、もともとソ連の一部だったウクライナと、共産党政府の支配下に一度も入ったことのない台湾とは違うのだが、そんなこと習近平は理解しない。

だとすれば、それなりに妥協しても、ロシアに少なくともキエフへまでは侵攻させないことが、台湾への波及を避けるためには、賢明だろうし、フランスやドイツは同じ思いだろう。

直接に火の粉を被らないし、実はいざとなっても行動する気もないバイデンやジョンソンの口先介入がかえってプーチンに侵攻の口実を与えないか私は心配だ。