持久戦で勝利することを知っているラファ・ナダル選手

体力を上回る精神力をもっているのがラファ・ナダル

1月30日、全豪オープンの男子シングルスでラファ・ナダル選手が優勝したことはスペインの全メディアが彼の快挙を賞賛した。最初の2セットを対戦相手のダニール・メドベージェフ選手に奪われながらも5時間24分の接戦の末に逆転勝利するという快挙であった。

ナダル選手も「私の勝利は最も予期しなかったもので驚くべきものだ」と自らがエル・パイス紙の取材に答えた。彼のこの発言にはこの大会に出場する前まで左膝の故障で6カ月間試合から遠ざかっていた上にコロナにも感染したことでまともに練習もできなかったからである。その為、ウインブルドン、USオープン、デービスカップへの出場もできなかったというハンディーを背負っての参加であったから、勝利するということに彼自身が当初から疑いをもっていたようだ。15歳の時にプロ選手になって以来初めて引退することが脳裏をかすったという。

しかし、ラファ・ナダルという選手は強靭な精神力をもっているので一般の常識が通用しない面をもっている。

ヨーロッパの数紙が共同でジョン・マッケンロー氏とテレビ会談を行い、その1紙「エル・パイス」1月25日付がそれを掲載した。その中でラファ・ナダル選手について同氏は次のように語っている。「彼の足の故障について私には詳しくは分からない。良くなっていることを望んでいる。ラファ・ナダルはこのスポーツでは信じられない選手だ。この15年間のラファのプレーを見ていて誰もが、あのスタイルでは現在まで長く続くとは思わなかった。

しかし、信じられないくらい素晴らしいアシスタント(4人のコーチと他3人の助手)のチームに囲まれている。しかも体力を上回る精神力を持っているという稀に見る選手だ。彼の精神力は狂気じみたほどで、大半の選手が意欲はもう打ちのめされて辞めてしまうという地点に到達しても彼はポシティブな行動を保っている。いつも戦うことが好きだといっている。それが彼の最大の特質だ。だから一つ一つの試合に戦う意欲をもっている」と語っている。

また昨年1月26日付で同紙に掲載されたマッケンロー氏とのインタビューの中で戦争だと(フェデラー、ジョコビッチ、ナダル)誰を戦場に連れて行きたいかという質問に同氏は「ナダルを連れて行きたい。彼の忍耐力に勝る敵はいないからだ」と答えた。

100%ベストを尽くすのが信条

ナダル選手の強靭な精神力は彼の持って生まれたDNAがそのようにさせているのであろう。しかし、それを上手く引き出していったのは彼の叔父トニー・ナダル氏(ナダルの父親の弟)であろう。ナダル選手の幼少時から2017年までトニー氏がコーチとして彼を指導して行った。また、もう一人の叔父ミゲアンヘル・ナダル氏はバルセロナーチームに所属していたサッカー選手だった。ナダル家はスポーツ一家なのだ。

トニー氏は甥っ子のナダル選手に「最も単純なことだが100%をベストを尽くす」ということことを教えて来た。その影響からナダル選手は進歩がないとか、最大限に活動していないということが気になる人物となり、向上心が旺盛で、「ラファはそれが小さい頃から身についている」とトニー氏は語っている。

ナダル選手をコーチする時にトニー氏が記憶していることは、小さい頃から練習コートが悪条件でボールも悪い状態の物を使っていたということ。また水を飲みたい時も飲ませなった。1時間半の練習もギリギリまで引き延ばして行ったそうだ。逆境に耐えることを小さい頃から指導して行ったのである。

ナダル選手の性格を知るひとつにタラサでの試合がある。1セットは6-0で負けた。その時、トニー氏が気づいたのはナダル選手のラケットが壊れていたのがその理由だとわかって、彼にそれを伝えてやると、持ち直して2セットはそれでも7-5で負けた。その時にどうしてナダル選手はラケットが壊れていたということを気にしなかったのかという質問にナダル選手は「僕はいつも結果は自分のせいによるものだということに慣れきってしまっているので、ラケットのせいだとはまったく考えなかったからだ」と答えたというのである。

またトニー氏は「ラファは常に責任は自分にあるという意識で成長して行った。コーチである私の責任ではない。責任は自分にあるということを習慣づかせること。起こっていることを他のせいにするのは実に容易だ」といったことを身につけさせたそうだ。

更に同氏は「他の選手と(ナダル選手が)最も異なっているのは(勝機をつかむ)機会をより多く持つことを知っていることだ。それには最上級の持久力を備えていることが必要だ」と述べて教え子のナダル選手はその点で秀でているということを指摘している。(2021年11月1日付「アルナビオ」から引用)。

世界の名選手の一人だったジミー・コナーズはナダル選手のことを「彼は一つのモールドから築き上げられた選手だ。それは私も同様だった。得点がどうであれ最初の時点から最後まで持っているものすべてをゲームに出し尽くして行くということ。それを観客がどう見ようと全く気にすることなくだ」と語って、ナダル選手も彼と共通の戦うスタイルを持っていると感じているようだ。(2020年11月2日付「OKディアリオ」から引用)。

常に謙虚で尊大さがない

ナダル選手がスペインでも人気があるのは彼の素直さであり、人間性が豊かであるということだ。驕りがなく、尊大さはまったくない。謙虚である。また思いやりがあるということ。いつの試合だったか、ナダル選手が対戦相手から受けたボールを返そうとした時にそれがボールガールの顔面に当たった。その時、瞬時に彼女の傍まで行って頬にキッスして謝った。試合後にも彼女と彼女の母親をカフェテリアに招待してひと時を過ごした。このような行動がナダル選手には売名心なく申し訳ないという気持ちから素直にできるのである。

ラファ・ナダル選手の活躍はこれからもまた十分に期待できる。