日経ビジネス電子版の記事『「やめる」は実は、「始める」より大切で難しい』(21年9月23日)では次の見出し、僕たちは本能的に「思考を節約」するようにできている/ケチな人ほど陥りがちな「本当の損」/「良いこと同士の選択」という難しさ/まずは「計画の立てすぎ」をやめる、で様々述べられています。
戦争であれ事業であれ、ある種の覚悟を持ち物事をスタートするのは比較的簡単です。しかし、物事を終結させるのは大変難しいものがあります。何故なら何かをやめるとは、今迄やってきたことが間違いであったと認める勇気が、そこに求められるからです。
戦争は言うに及ばず、事業でも勇気なく間違いを認めることなしに引き際が分からなかったケースは結構みられます。始めの内は成功し上手く行っていた場合など環境変化に気付かず、スローダウンすべきタイミングや引き際を間違えてしまうのです。自社の業務は之しかないといった具合に、そこには最早何ら疑う余地もなく同じ事柄をだらだらとやり続け、そして引き際が分からぬまま時が過ぎ、結局がたがたになって終わらざるを得ない状況になるわけです。
事業でも撤退するというのは、ある種の敗北であって、それをやめるということに対する勇気・決断・合理性等々が皆揃っていないと中々出来ないものであります。全事業の成功などほぼ不可能であり、勝算なき事業を続けていても無意味ですから、トップは自身の判断の間違いを認め、退くという決断が求められる局面に幾度となく立たされます。トップはこうした時、時流を洞察しその変化に勇気を持って応じなければならず、それが出来ぬトップであれば組織は末は破滅の道を辿ることになるのです。
私はSBIグループの創業の時に作った五つの経営理念の一つに、『セルフエボリューションの継続…経済環境の変化に柔軟に適応する組織を形成し、「創意工夫」と「自己変革」が組織のDNAとして組み込まれた自己進化していく企業であり続ける』という言葉を入れました。之はそうした企業体質を有することが、企業の長期存続の条件として非常に大事だと考えたからです。
環境変化はそう簡単に変えられません。だからこそ自らを変えることで、生き残ることを考えるべきでしょう。変化に応じなければ、新たな環境の中で生きては行けません。過去の成功体験に溺れることなく絶え間なく勇気を持って、自己否定・自己変革・自己進化というプロセスを続けて行かねばならないのです。
ちなみに、嘗てマスコミから「再建王」や「船舶王」あるいは「四国の大将」とも称された、坪内寿夫さん(1914年-1999年)も「撤退が一番難しい」と仰っていました。連続する環境変化の下、被る損失を最小限にとどめるべく撤退のディシジョンメイキングをして行くことは、始めるより余っ程難しいことだと思います。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。