自衛隊はサイバー攻撃から国民を守るつもりはない

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自衛隊は国民をサイバー攻撃から守る手段もつもりもありません。

トヨタ、きょう国内全工場を停止…部品メーカーがサイバー攻撃受けた可能性

トヨタ自動車は28日、3月1日に国内全14工場28ラインの稼働を停止すると発表した。部品メーカーのシステム障害で、部品の供給を受けられなくなった。サイバー攻撃を受けた可能性があるという。

ウクライナ侵攻で歪むサイバーセキュリティーの論理 ハッカー国家ロシアの脅威、地球規模のサイバー戦争はあるか?

ロシアは何年も前から世界で最も活発な国家ハッカーであり、恐るべきサイバー戦能力を構築してきた。

昨年10月に米マイクロソフトが公表したデジタル防衛報告書によれば、国家ハッカーの仕業だと判明している過去1年間のサイバー攻撃のうち、58%はロシアによるものだった。

現在の戦争はハイブリッド戦争と化しつつあります。あるいはサイバー戦だけに終わる可能性もある。実際に我が国に対して派手な航空戦を行い、連隊単位で揚陸してくるならば、多額の費用と船舶、そして大きな犠牲を出す必要があるわけです。

そして中国がそれをやるのであれば、自国の経済も大打撃を受けるわけです。

合理性を考えればそれは割に合いません。サイバーであれば、より少ないリクスで我が国を混乱させ、経済に大打撃を与えることは不可能ではなし。しかも自分が下手人ではないと白を切ることもできるでしょう。

あるいは台湾に対して火力を用いた戦闘をするにしても、我が国に対してはサイバー戦のみを用いるかもしれない。日台米に対して実際の戦闘を行うより、台湾正面に戦力を集中するほうが合理的でしょう。

そもそも我が国は現在の防衛大綱でも大規模侵略の蓋然性は低く、主たる脅威は島嶼防衛やゲリラコマンドウであるとしています。まして、師団単位で戦車部隊が揚陸してくるような、自体は想定しにくい。そもそも中国に我が国を占領するメリットはない。

であれば「火の出る玩具」を使った戦争よりも、サイバー戦を警戒すべきでしょう。

ゲリラコマンドウにしても、通信インフラを攻撃するほうが普通の戦闘を行うよりも遥かに費用対効果がたかいわけです。

サイバー戦、物理的攻撃の脅威

サイバー攻撃というと一般にサイバー空間内におけるハッキングや侵入、情報の破壊など電子の世界だけのことと思われがちだ。だが、もっと深刻なのはネットインフラへの物理的な攻撃だ。

特にIXP(Internet Exchange point:インターネット相互接続点)と海底ケーブル陸揚所への攻撃は深刻だ。これらが破壊されれば、国内でネットが使えず、日本は完全に海外から孤立する。

ところが自衛隊のサイバー戦部隊が守るのは自衛隊と防衛省のアセットだけです。

「火の出る玩具」で攻撃されたら自分たちの出番だが、「火のでない玩具」で攻撃されて、国民が死傷し、経済的に損失を蒙っても、俺達は知らんよ、という話です。

岸防衛大臣にしてもこの件に関して、はっきりいいません。現状でいいと思っているようです。

ですが「火の出る玩具」による攻撃、戦争は火星人の襲来やゴジラの上陸よりもやや高い程度の可能性しかない。対して、IPXや海底ケーブルに対する攻撃、更にはサイバー戦による通信インフラ、原発、交通、金融インフラに対する攻撃のほうが遥かに可能性も高い。

中国の爆撃機が本土を空襲で国民が死傷するよりも、原発の暴走や病院へのサイバー攻撃で国民が死傷する方がよほどリアリティのある話です。

現状を見る限り防衛省、自衛隊は「火の出る玩具」で戦争をしたいという、まるで程度の悪い軍オタと同じです。

これは換言すれば如何に外国から社会インフラ、民間企業へのサイバー攻撃をしても日本国も自衛隊もそれに対して何ら防衛も、反撃もしませんご自由にお楽しみください、と宣伝しているようなものです。

これは抑止という面でも大変問題です。

より高い脅威、より起こりうる脅威に関して無関心です。趣味の軍隊といわれても仕方ない。それはまた政治の問題でもあります。政治が軍事の変化に対して無知であり、国防のあり方について、頭の切り替えができていない。

まあ、法整備の問題もあるのでしょう。

サイバー戦は憲法のいう「交戦」にあたるのか、サイバー戦では平時から仮想的に対する攻撃は普通に行われています。逆に攻撃をしないと有効な防御ができない。これを自衛隊にやらせていいのか、こういう問題もあるでしょう。

面倒くさいから放おっていいわけではないでしょう。

例えばサイバー戦は憲法制定時に想定していなかった。故にこれは憲法のいう「交戦」ではないと内閣法制局に言わせればいい。

あるいはサイバー戦の主体を警察か海保に置いて、「警察行為」であると強弁する。または総務省にその手の部隊を置く手もあるでしょう。

理屈はともかく、我が国は泰然自若と腰を抜かして続けている現状でもサイバーに対する脅威は刻一刻と強まっています。

■本日の市ヶ谷の噂■
陸自の機銃調達商戦は、FNのMINIMI Mk3が勝ち取った、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。