ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1周間が過ぎた。先月24日に掲載(公開)された拙稿で、こう書き出した。
「やはり、ウクライナへの軍事侵攻が始まった」
いま読み返すと、「侵攻」ではなく「侵略」とのツッコミが聞こえてきそうだが、ポイントはそこでない。当該ページのタイトルに次ぐ2行目に記された掲載(公開)時刻である。「2022.02.24 06:55」――日本時間で当日早朝に掲載されたことが小さな数字で記録されている。
ロシアのプーチン大統領が、親ロシア派組織とウクライナ軍の対立が続く同国東部での「特別軍事作戦」の実施をテレビ演説で宣言したのは、現地モスクワ時間で24日の午前6時。日本時間では12時に当たる。
つまり、前回の拙稿は、その約5時間前に掲載されたわけである。執筆時点で、こうなると見込んで書いた予定稿だったが、フライングの掲載となった。まさに結果論だが、予測どおりの展開となったので、ご寛容願いたい。
他方、NHK以下、主要メディアで軍事侵攻の開始を予測した者は、私が見た範囲で一人もいなかった。その点では、2月20日放送のNHK「日曜討論」に出演した小泉悠講師(東京大学)が「軍事侵攻の可能性は否定できない」と指摘していたのが例外に当たる。
大多数の「識者」や「専門家」らが「交渉を有利に進めるためのブラフ(脅し)であり、軍事侵攻はない」と見ていた。「軍事侵攻すれば、ロシアも多くのものを失う。プーチンもバカではない」云々の〝論拠〞が24日の午前中(日本時間)まで、主要メディアを埋め尽くしていた。
要するにみな、こんなことにはならないと言っていたわけである。上記の小泉講師や黒井文太郎(軍事ジャーナリスト)など、ロシアの軍事侵攻に対する警戒を怠らなかった軍事専門家もいるが、大半の論者が見通しを誤った。
24日のNHK「ニュース7」に出演した大学名誉教授に至っては、軍事侵攻が始まったにもかかわらず、ロシアの認識や主張を代弁した。前々回の拙稿で指弾した番組の論者らと同じく、客観的にはロシアの情報工作に籠絡されたように見える。外務省内に「チャイナスクール」が生まれるのと同じ力学が働いているのであろう。論壇の「ロシアンスクール」と呼んでもよい。
問題は、それらの論者を起用したテレビ局らが、その後も引き続き出演させていることである。残念ながら今に始まったことではない。2016年のトランプ当選を予測していたのは(私を含む)数名に留まる。中には、NHKの番組で、クリントン候補の当選確率を「100パーセント」と予測した東大教授もいる。さすがにもう出てこないだろうと思っていたら、その後、当該教授のレギュラーコーナーが誕生した。あとは推して知るべし。
つい、1週間前まで、まさかこんなことにはならないと思っていた連中が、今日も各局の番組で「今後どうなるか」を「解説」している。じつに滑稽な話ではないか。
蛇足ながら、反省すべきは、学者やマスメディアだけではなかろう。ロシアとの共同経済活動などを進めてきた歴代政権にも責任がある。ロシアの独裁者(プーチン)と「ケミストリーがあう」と言われた総理もいた。解決すべき北方領土問題を抱えていたとはいえ、美談ではあるまい。
歴代政権が進めてきた日米豪印の4か国による枠組み「クワッド」も例外でない。3月3日、国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択された。バイデン米大統領の演説を借りよう。
141か国がロシアを非難した。いくつかの国は棄権した。中国は棄権した。インドも棄権した。彼らは孤立している。
インドは過日の国連安保理非難決議案にも棄権した。さらに言えば、インド軍は主要装備(兵器)の7割近くをロシアから輸入している。だから連続して棄権したともいえよう。
ロシアへの経済制裁で日本の企業が返り血を浴びるのは、ロシアに協力支援し、利益を得てきた代償でもある。
よくも悪くも日本らしい曖昧な外交姿勢は、結局、高くつく。今こそ官民挙げて、旗幟を鮮明にすべきときである。