中国を漁夫の利とさせるのか:橋下徹氏と高市早苗氏の”どっちもどっち”

3月6日のテレビ番組で橋下徹氏と高市早苗氏の討論があり、両氏が激論となったニュースが話題となっています。橋下氏が中国を取り込むべきという論に対して高市氏は西側主導の制裁は効いてくるはずだから中国への譲歩などいらない、という趣旨でした。橋下氏は番組終了後、「戦う一択の高市さんは国家指導者として危険だ」と評しました。

この議論、私からするとどっちもどっちに聞こえます。橋下氏は今回の戦争では中国がキーになるから柔軟な姿勢と解決策を模索する案に対して高市氏が欧米に同調する強硬路線を堅持した点で保守派は大喜びでしょう。しかし、我々はテレビ越しのバトル討論の賛否を論じるほど余裕もないのでより現実的でグローバルな観点を考える必要があるとみています。

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この戦争はどんな形になろうとも現ロシアは西側諸国とつながるプラグをしばらく外されたままとなり、再びセットされるには時間がかかるだろうとみています。仮に現政権が完全に没落し、新しい国家として新生ロシアが生まれる場合、ロシアの経済的復興を図るため、GHQのような何らかの支援策も考えられますが、その場合、誰が支援の名乗りあげるかといえば消去法で考えると中国しかいないのだろうとみています。

経済的結びつきが強いのは中国と共にドイツがありますが、今のドイツはEUの枠組みもあり、簡単にドイツ一国では動きが取れません。また、1億4千万人の人口を支えるにはそれより人口も経済力もあることが重要であり、一般的には中国が主導すると考えるのが妥当ではないかとみています。

では中国は何をどうするだろうか、と考えた時、私が思い描いたのは国家による国家の実質的支配であります。もちろん国境が変わるというような大それた話ではなく、共同経済圏の創設であり、中国がロシア経済を保証するような形態が起こりうる可能性をイメージしています。

例えばロシアの通貨、ルーブルは残るのだろうか、という疑問があります。国債がデフォルトになり、通貨としての機能を失えばたちどころにバックアップ通貨は必要になります。その際、デジタル人民元が実用間近ならばそれを応用しながら新ルーブルを作り、元と新ルーブルをペッグ制にして通貨価値をピン止めする方法が考えられます。中国はロシアの金の14%を預かっているとされます。金額にして10兆円相当に当たります。もちろんこれぐらいでは国家の担保としては〇が4つか5つ足りませんが、そういう行動に転じられるのが中国である、ということです。

ウクライナの戦争は誰と誰の戦争か、という話題を振りました。私は祖国戦争だと申し上げましたが、それは西側諸国に寝返りを打ったウクライナへの厳しい折檻のつもりもあるでしょう。ロシア事情専門家の佐藤優氏はさらに19年に「ウクライナのキエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したこと」(デイリー新潮)をプーチンが恨んでいるという指摘もありました。

これはウクライナを舞台にした民主主義対権威主義の戦いとも訳せそうです。とすれば中国がバックアップをするのはナチュラルであり、あらゆる経済価値が紙くずに近い状態のロシア資産を一気にすくい取る極めてたやすいサクセスストーリーがそこに存在します。

冒頭、私は橋下氏も高市氏もどっちもどっちと申し上げたのは今の西側諸国の強力な制裁は中国を恐ろしいほどの利益をもたらすことに他ならない点で軽々しく中国うんぬんと言ってはいけないのだろうと思うのです。

私が思う西側諸国を利する方法としてはウクライナ再建のための全てのコストをロシアに負担させることでウクライナ、ひいては西側諸国が膨大な間接債権を取り、西側諸国がロシアのあらゆる資産にアクセスできる手法を考えることだろうと思っています。日本ができることは例えばサハリン1やサハリン2を再開させるにあたり、日本が債権者として同プロジェクトを全面的に主導し、そこからの利益で債権を回収するといったこともあるでしょう。国後、択捉島の共同管理という名目で北方四島に乗り込むアクセスづくりもあるかもしれません。

確実に言えることはこの戦争は西側諸国にとって極めて大きな飯のネタに変貌する可能性を秘めており、戦争はその悲惨さと裏腹にそういうことを虎視眈々と狙うのがごく普通に行われてきたことは認識しなくてはいけません。こんな戦争をやっているときに人道的観点はないのか、と怒られると思いますが、多くの戦争は結局争って何を得るか、という最終ゴールを目指す人間のエゴそのものなのです。

多分インテリジェンスレベルでは既にあんなテレビ討論とは全く別次元のスタディが始まっていると私は確信しています。その気があれば非常に面白いスキームが作れるはずで、既に誰かがこっそり準備していることだろうと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月8日の記事より転載させていただきました。