モスの食パンでヤマザキのイメージが変わる理由

食パンブームは終わった、と言われる中。モスバーガー(株式会社モスフードサービス 以下 モス)が、食パンを再発売します。

株式会社モスフードサービス プレスリリースより

前回は「普通の」(高級)食パン、今回は「チョコ」食パンです。最大の特徴は、プロモーションを兼ねた「長い」商品名です。

モスバーガーとヤマザキパンでじっくり考えた濃厚なチョコ食パン

これが商品名です(以下「チョコ食パン」とします)。前回の食パンは、

「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」

でした(以下「バター食パン」とします)。こちらについては、昨年記事を書いています。

モスバーガーの食パンが苦戦する理由(2021年3月14日)

記事では、

・バター好きが求める、「塩バターロール」のようなバターの風味が無い
・スイーツ好きが求める、他店の高級生食パンのような甘味が無い
・主食として、普段使いするにはカロリー(と価格)が高すぎる

など、ターゲットが絞り込まれていない。大手メーカー(山崎製パン株式会社 以下ヤマザキ)が製造しているため、プレミアム感がない。よって、リピーター獲得は難しいのではないか、と推測しました。その後、モスはスケジュール(※)より3か月早く販売を終了しています。

今回の、チョコ食パンは、販売するモス、製造するヤマザキに、どのような影響を及ぼすのでしょうか。考察します。

チョコ食パンとはどのような商品か

新作のチョコ食パンはどのような商品なのでしょうか。

販売方式は、前回と同じ月2回の予約販売のみ。

価格も、前回と同じ600円。少し意外です。チョコ系食パンは、原材料が高いため、価格も食パンより高めにするのが一般的です。高級食パン店「ラパン」では、830円(食パン440円)と、かなり高めに設定しています。

モスは、前回、高級食パン店を超える強気の価格設定でしたが、今回はやや抑えたようです。

味については、高級食パン店 ラパンの「ショコラシフォン生食パン」(以下 ラパン)、スーパー等で販売されている「ヤマザキ チョコゴールド」と比較しました。

以下主観です。

この3点で、いちばん美味しかったのがモスの「チョコ食パン」でした。「適度に甘く、しっとりしているのに、食後感が軽いから」です。

モス「チョコ食パン」 筆者撮影

前回のバター食パンでは足りなかった甘味が適度にあるため、スイーツとして楽しめる。ヤマザキチョコゴールドのような「パサパサ感」がなく、高級食パンに求められる「しっとり感」がある。ラパンのような食後の重さが無く、すっきりしている。

「すっきり」には理由があります。脂肪分を減らし、カロリーを抑えているのです。

ヤマザキチョコゴールドは、100グラムあたり369キロカロリー。対して、「チョコ食パン」は331キロカロリー。普通のチョコ系のパンや、前回のバター食パン(392キロカロリー)より低く抑えている。1枚あたりだと、265キロカロリーです。スイーツとして考えれば、許容範囲なのではないでしょうか。

モスバーガーのメリットはほとんど無い

しかし、美味しいとはいえ「チョコ」食パンなのです。サンドイッチやトーストなど、食事として食べる「バター食パン」に比べ、リピートは大幅に少なくなります。

また、販売期間が6月24日までに限定されています。

前回の「バター食パン」の販売量は40万斤でした(※)。売上高は2.4億円、モスの年間売上720億円に占める比率は、0.3%程度。収益への貢献度は高くありません。今回は、リピートが見込めず、販売期間も短いことから、さらに低くなるはずです。モスにとってのメリットは、あまりありません。

では、ヤマザキにとってはどうでしょうか。

前回の食パンは「落胆」だったが

前回のモスのバター食パン発売時、SNSで多かった投稿は

「なんだ。ヤマザキのパンなのか……」

といった落胆の声でした。

昨年の販売時には、各店舗のキッチンで焼いていると思われた方もいらっしゃいました
(モスフードサービス 広報IRグループ )

パン工房の手作りパンを期待したのに、パン工場の大量生産品だった。そんな印象を与えてしまったようです。

決して、ヤマザキの品質が低いわけではありません(あまり知られていませんが、“ゴールドソフト”や“太陽(ひ)の力”など、高品質食パンを製造しています)。しかし、スーパーなどで200円前後で売られている、「いつもの」食パンのイメージが、ヤマザキにはあります。1斤600円する「特別な」食パンのイメージはありません。このギャップが、落胆につながったのでしょう。

そこで、今回モスは、「落胆」を逆手に取るかのような商品名を、チョコ食パンに採用しました。

あえて、商品名に「ヤマザキ」を入れる

「モスバーガーと『ヤマザキパン』でじっくり考えた濃厚なチョコ食パン」

ヤマザキパンを商品名に入れたのです。

「前回、SNSで『落胆の声』が多かったから、あえて『ヤマザキ』と入れたのでしょうか?」モスフードサービス 広報IRグループに聞くと、

「(その影響も)多少、あります」とのこと。

これは、ヤマザキにとって大きなメリットとなります。

ヤマザキの高級食パン

ヤマザキの商品ラインナップに、「ゴールドソフト」や「太陽(ひ)の力」といった高級食パンがあります。小麦など原材料が値上がりしているため、これら付加価値の高い、高級食パンの販売割合を増加させたいはずです。

しかし、販売店舗はデイリーヤマザキのみ。今回のモス同様、予約販売限定です。予約制だからデイリーヤマザキでしか販売できない、とも言えます。高級食パンブームより、はるか前(商標登録は1993年)から販売しているにもかかわらず、認知度が低いのはそのためです。

デイリーヤマザキ 筆者撮影

モスの食パン販売対象店は1100店舗。デイリーヤマザキの8割近くに匹敵します。これら店舗で「ヤマザキパン」を商品名に冠した高級食パンが販売される。「いつもの」食パンメーカーではなく、「高級」食パンメーカーとしての一面を見せることができる。ブランドイメージ向上が期待できます。

商品は商品名を超えられるか

「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」
モスバーガーとヤマザキパンでじっくり考えた濃厚なチョコ食パン

商品特徴を、そのまま商品名にした前回。商品開発プロセスを、商品名にした今回。

よくあることですが、モス開発メンバー家族、ヤマザキパン様の担当者家族も巻き込んで試食を繰り返しました。今回は第二弾なので、「想い」をネーミングにさせていただきました。
(モスフードサービス 広報IRグループ)

さて、「想い」はどのように味に反映されているのでしょうか。たまには、1斤600円の高級チョコ食パンを試すのも良いかもしれません。

※ スケジュール
店頭配布の予約日とお渡し日が記載された販売スケジュール。2022年1月28日が最終日。

※ 販売量
モスバーガーとヤマザキパンでじっくり考えた濃厚なチョコ食パン」新発売~「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」も復活~|株式会社モスフードサービスのプレスリリース

※ 売上高 有価証券報告書(2020年4月1日-2021年3月31日)より
※ コンビニ店舗数
日本のコンビニエンスストアチェーン一覧 – Wikipedia