殺害の多さに驚かなくなっているラテンアメリカ

ラテンアメリカ諸国は犯罪が多発している地域だ。特に殺害件数の多いのには驚かされる。昨年の記録の中で最も殺害件数が多かったのはジャマイカの10万人当たり49.4人が殺害されたというケースだ。また殺害された人が一番多かった国はブラジルで、およそ4万人だ。この記事が作成された時点ではブラジルではまだ最終の集計がされていなかったということでおよそ4万人となっている。

また麻薬組織カルテルが蔓延り政治家やジャーナリストなどが殺害されているのが良く報道されるメキシコは10万人当たり26人が殺害されている。

昨年の場合だとコロナ禍による影響で貧困層の増加やロックダウンの影響からアルコール類の消費の増加と麻薬組織や犯罪グループの活動がより活発化した。その一方でロックダウンから警察官や軍人にも感染者が出たりして犯罪の取り締まりにより困難を伴うようになっていた。これらの理由から大半の国で昨年の殺害件数はその前年を上回る結果となっている。

2月6日付「シネンバルゴ」の内容に基ずいて以下に国ごとに昨年の殺害された人の数を列記して行くことにする。

      人口10万人あたりの他殺者数  2021年の他殺者数

ジャマイカ     49.4人           1463人

➡殺害された人の4分の3は若者が中心となった犯罪グループの仕業とされている。

ベネズエラ     40.9人           1万1081人

➡治安当局の取り締まりなどによって死亡した人も含まれている。首都カラカスだと10万人当たり80人が他殺されている。

ホンジュラス    38.6人             3651人

➡若者で構成されているギャング組織MS13の巣窟だ。

トリニダード・トバゴ 32人              448人

➡ベネズエラとの間の海峡で海賊に殺害されるケースが多くある。

ベリーズ      29人               125人

➡ギャング組織BloodsやLos Cripsが犯行を行っている。

コロンビア     26.8人             1万3709人

➡コカインの生産国で世界で最も危険な国のひとつだ。ゲリラ組織の民族解放軍(ELN)と解散したコロンビア革命軍(FARC)の残党が新たにゲリラ組織を構成してテロ活動を続けている。ゲリラ組織はベネズエラのマドゥロ大統領が支援しており、彼らのベースをベネズエラにおいてそこからコロンビアに侵入して犯罪を行っている。更に麻薬組織カルテルも複数存在して活動している。

メキシコ       26人             3万3308人

➡カルテルの巣窟。特に6つの自治州で他殺事件が頻発している。警察がカルテルと癒着している場合が往々にしてある。最近は女性が多く殺害されるケースが増えている。またカルテルと政治家の癒着などを追跡調査しているジャーナリストが彼らによって殺害されている。犯罪を追及するジャーナリストは命がけの職業になっている。

プエルトリコ     19.3人              616人

➡コロナ禍の影響で昨年は他殺事件が減少したが、2019年だと622人が殺害されている。

ブラジル       18.5人          4万人(最終の集計が未完了)

➡ブラジリアは45年振りに最も低い他殺率を記録。一昨年に比べ昨年の他殺件数は減少。ボルソナロ氏が大統領に選らばれた理由のひとつが犯罪の取り締まりの強化であった。

エルサルバドル    17.6人           1140人

➡ブケレ氏が大統領に就任してから他殺率は減少している。しかし、それもエルサルバドルの犯罪を支配している2つのギャング組織MS13 と2つのB18と裏取引をして犯罪を減らすのと交換で刑務所内での彼らの監視などを緩めることを約束したとされている。またMS13のひとりを米国への送還を要求しているがそれを却下することや外部との携帯電話での交信により自由を与えるといったことが約束されたという。

グアテマラ      16.6人           2843人

➡特にMS13の巣窟になっているのが中米3か国ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラである。首都のグアテマラ市で記録されている他殺の3分の1が実行されたという。

ガイアナ       15.2人           119人(1月から11月まで)

➡小国で警察も規模が小さく十分な取り締まりも調査もできないでいる。

エクアドル         14人            2464人

➡コカインの栽培が盛んなコロンビアとペルーに挟まれた国でヨーロッパへの麻薬の密輸の重要な港がある。メキシコの2大カルテルのシナロアとハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンが現地のギャング組織に武器を供給していると推測されている。

ハイチ         13.7人           1630人

➡昨年モイーズ大統領が暗殺されるという事件があった。同大統領はギャングと協力して腐敗したオリガルキーを変えようとした。それだけギャング組織が強い勢力をもち、小国でありながらも殺害事件が多く発生している。

パナマ           12.8人          554人

➡3つのギャング組織がより攻撃的となっている。

コスタリカ        11.5人           588人

➡中米において政治的には最も安定した国であるが、カルテルが地元のギャングを使って麻薬の密輸に協力させていることから犯罪も増えている。

ドミニカ共和国      10.3人       841人(昨年1月から9月まで)

➡カリブ海の島ということでカルテルにとって密輸の中継地として理想的な国だ。カルテルが動けば必ず犯罪を伴うようになる。

ウルグアイ         8.9人          309人

➡ラテンアメリカにおいて最も安全な国の一つとされている。ブラジルのギャングが国境地域で犯罪を犯している。それでも2019年は342人、2020年は326人と他殺が減少している。

パラグアイ         7.4人           525人

➡ラテンアメリカで他殺が最も少ない国のひとつだ。犯罪は特にブラジルとの国境地域で目立っている。

ニカラグア          5.7人        189人(昨年最初の6カ月)

➡独裁国家で昨年は大統領選挙がからみ他殺も増加した。

ペルー            4.3人         1427人

➡コカの栽培が盛んな地域で原住民が多く殺害されている。またゲリラ組織センデロ・ルミノソも嘗ての勢いはないが昨年6月には18人が殺害されている。

チリ             3.6人         698人

➡ラテンアメリカで他殺が最も少ない国だ。長年犯罪活動の取り締まりに効果を発揮した国である。これは国民性も影響しているようだ。チリはラテンアメリカ諸国で最も規律が守られて来た国だ。それは規律性のあるドイツからの移民が多いのが影響しているかもしれない。

アルゼンチン  統計が遅れて公表され、しかもそれが正確さに欠けるという評価も                    ある。それでも2020年は2416人が殺害されたとされている。

ボリビア    関係当局からの資料の提供がない。

ラテンアメリカではカルテルとギャングが麻薬に絡んで活動している限り犯罪も鎮まることがないであろう。