コーポレートガバナンスとはアクティビストファンドの横暴を阻止するためにある

小幡 績

アクティビストファンドのターゲットといえば、いまや東芝が有名だ。東芝に関しては、東芝の経営陣の迷走もあって、アクティビストファンドはいつの間にか、正しいガバナンスの使者と振舞っている。そして、それを有識者も日本のメディアもなぜか妄信している。

村上ファンド事件のことは、ファンドはすべて悪、と間違って認識に染まった同じ人々が、現在は、ファンドを正義の味方と崇拝している。もちろん、これは180度間違っている。

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メディアはいつから日本を滅ぼすファンドの味方になったのだろうか。身内の恥(東芝のお粗末な経営)を非難することの方が、日本経済という船全体が沈むことを防止するよりも重要なのだろうが、日本の有識者、メディア、世論の愚かさは、自滅への道だ。東芝だけでなく、その他の経営のお粗末な日本企業が、今後、世界の二流の悪意を持ったファンドに次々と食い物にされていく恐れがある。

本稿では、日本経済を救うための最後の機会、勝負どころとして、東芝問題を通じて、正しいコーポレートガバナンスの議論を提示したい。

東芝の迷走の根源は東芝の経営にあるが、それを修復せずに何十倍にも拡大したのは、アクティビストファンドだ。

アクティビストは株主だ。取締役は株主に選ばれ、取締役の中から代表取締役社長が選ばれる。だから、株主の意向に社長、経営者は従う必要がある。だから、株主と経営者の意見が対立した場合には、株主の意見が優先され、それに沿わない代表取締役社長は、社長を解任され、代表権を失う。そして、次の株主総会で取締役としても選任されず、会社を去ることになる。これが、株主が会社の意思決定権を支配するメカニズムである。

しかし、私はこれを非難するのではない。株主至上主義、株主支配論、会社は株主のものだという議論を批判するのではない。

逆だ。株主の権利を振りかざすアクティビストファンドは、株主の利益を損ない、企業価値を破壊する、と非難するのだ。

会社は株主のものであるからこそ、株主をアクティビストという悪い株主から守る必要があり、東芝および東芝の株主は、悪い株主であるアクティビストに破壊されつつあるのである。

株主にはよい株主と悪い株主がいる。

よい株主とは、すべての株主の利益を最大化し、企業価値を最大化する株主である。悪い株主とは、自分を含む一部の株主の利益だけを考え、ほかの株主の利益を奪い、既存し、利益を自分のものにしようとする株主だ。

そして、コーポレートガバナンスの基本は、よい一般の株主を、悪い一部の株主から守ることであり、それがすべてなのである。

これは、私独自の主張ではない。経済学においては、1990年代初頭に世界的に確立し、その後、揺るぐことのないコンセンサスなのだ。成熟国の政府も新興国の政府もIMFも世界銀行も、この原理に基づき、政策を実施している。ドイツでは21世紀に入り、この原則に基づいた証券取引所を整備し、新興国は、とりわけアジア金融危機を1990年代末に経験したアジアは、一斉にこの原則に基づく法制を整備した。

株主全体の利益とは一般株主の利益であり、とりわけ弱い立場にある少数株主の利益を守るために、会社法は存在する。一方、悪い株主とは、悪意があればもちろん悪い株主であるが、多くの場合は、議決権を支配している支配株主が、自己利害を優先した場合に、悪い株主になる。だから、1株1票の株主総会が原則であり、グーグルなどの特定の株主が絶対的な議決権を持つ(黄金株など)のは例外中の例外であり、その株主が常に企業の長期的価値を最大化することが保証されている(見込まれている)場合に限って、そのほかの株主が認めるのだ。

現在、アクティビストファンドが東芝に対して行っているのは、総会屋が日本企業を食い物にしたときと、同様なものなのである。

なぜ、日本には総会屋という経営者を恐喝し、自己利益を得る悪い株主が存在しえたのか。それは経営者がだらしないことが主因だが、そのような総会屋手法が成立しえたのは、日本の株主の権利が世界一強いからだ。株主が極めて強い権利を持っているために、一部の株式を保有するだけで、様々な働きかけを会社に対して行うことができるようになっているからである。一例を挙げれば、米国では株主総会における株主提案は、限定された項目についてのみしか行えないが、日本では、ほぼどんな提案でもできる。

日本では、このような株主の強い権利を利用して、一般の株主、株主全体、企業全体の長期的利益を損ない、それにより自己利益を得ることができる株主が生まれ、だらしない経営者に目をつけて、世界中の質の悪いアクティビストファンドが集まってきているのだ。

今回、東芝の社外取締役が、会社の経営陣が会社として反対を表明している株主提案に対して賛成する、と表明したことが話題になっているが、これを非難すること自体がおかしい、このような内部経営者に対して異を唱えることこそが社外取締役の役割だ、と論じる無知な有識者やメディアが多いが、も違っている。

そもそも、この社外取締役は、本来、社外取締役と認めるべきでない取締役だ。なぜなら、第3位の株主であるファンドの代表、利害関係者だからだ。社外取締役、本来は独立取締役と呼ぶべきだが、法律上も、独立取締役は、特定の株主の利益を代表するのではなく、一般株主の利益を代表することが役割である。とりわけ、このような一部の支配力を持つ株主から少数株主の利益を守るために、支配株主を取り締まる、それが本来の役割だからだ。

もし、アクティビストたちが、真に東芝の長期的な企業価値を最大化する意図があれば、経営陣が気に入らないのであれば、ただ絡むのではなく、早く彼らの理想とする経営陣をつれてくる必要がある。彼らが東芝の経営について、よいアイデアがあるのなら、自分たちの保有株をいち早く売却するために、全株が売却できる、非上場化を求めるのではなく、株式を保有したまま、よりよい経営案を提案するはずだ。彼らは、できないし、しない。それは単にいち早く高値で売却したいだけだからだ。

そのような短期的な利益を追求し、長期的な企業価値を最大化しようとしない株主は明らかに悪い株主であり、東芝の件においては、アクティビストファンドたちは、悪い株主の典型的な例に他ならない。