米国は日本の防衛ために核の使用を決断するか

世界のリーダーという虚実

ロシアの侵攻に直面している最中、ゼレンスキー大統領は米国からのさらなる支援を獲得するために、米国議会団に向けて演説を行った。その中で、演説を上映していた場にはいなかったバイデン大統領に向けてゼレンスキー大統領が直接語り掛ける場面があった。以下がその箇所の抜粋部分である。

バイデン大統領に申し上げます。あなたは国のリーダーであり、偉大な国のリーダーである。私は、あなたが世界のリーダーであることを望みます。世界のリーダーであることは、平和のリーダーであることを意味します。

米国の大統領が世界のリーダーであるという考え方は多くの人々が共有している前提である。戦後の国際秩序の基盤を作り、それを維持してきたのは米国であった。内向き化がすすむ現状においても、おおよそ1世紀に近くにわたって世界の中心に居続けた米国の実績は今でも我々の米国観を形作っている。

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しかし、だからといって米国はオールマイティな存在ではない。それは、ロシアという本気になった核保有国の行動を米国が止められなかったことが示している。そして、その限界は米国の核の傘に依存する日本にとっては不安を覚える状況である。

第三次世界大戦は戦わないの意味

 これまで、バイデン大統領はウクライナを軍隊を派遣するなどして今以上に支援しない理由を第三次世界大戦を回避するためとしている。この理由付けはあまり歓迎できる表現ではない。

第三次世界大戦の可能性は米国が核保有国の攻撃から自国、あるいは同盟国を防衛した際に否が応でも発生する。なぜなら、通常戦力による交戦がエスカレートしていき、そのまま核を使用せねば事態が収拾できない状況に陥る懸念があるからである。

このような事態に発生する可能性が米国、又はその同盟国への攻撃の含意であるがゆえに、米国及びその同盟国の安全保障は戦後担保されてきた。つまり、核の潜在的な使用の可能性があるがゆえに、米国の抑止は信憑性を帯びてきたのである。しかし、米国が実際には核戦争までエスカレートされる恐れを過度に警戒しているのであれば、それは逆説的に抑止の信憑性を低下させる。

そのため、同盟国の信頼を損なわないためにも、ウクライナを支援しない理由は第三次世界大戦の文脈ではなく、NATOに加盟していないと事実に力点を置いた方が米国とその同盟国の関係にとってはポジティブなはずである。

しかし、バイデン大統領はそれをせずに、第三次大戦の危険性を殊更に強調している。この姿勢は有事の際に条約を法的基盤とした正統な同盟国への防衛の際に米国が座視するのではないかという懸念を増長させる。

第三次世界大戦についての言及が、過度な軍事的関与を求めつつある世論を抑えるためのレトリックであれば、それに越したことはない。しかし、第三次世界大戦を戦いたくないというのがバイデン大統領の心の叫びだとすれば、それは現状変更国に米国が同盟国を守るために核を使用しない、逆に同盟国には米国が核を最終的には防衛の一環で使用しないのではないかという印象を与えてしまう。

米国はどう見られているかを認識すべき

 米国はもはや以前のような超大国ではない。Gゼロという言葉が示すように、多極化の時代への突入によって、数ある国のひとつとなりつつある。しかし、依然として世界最大の経済力、軍事力を誇っている。

腐っても鯛ではないが、相対的に衰えても米国なのである。そして、未だに日本を含めた多くの同盟国にとって自国の安全の確保は米国が提供する拡大抑止抜きでは考えられないのである。

米国にとって同盟国を守ることは究極的には核使用のリスクと隣り合わせの決断である。そして、その信憑性があればあるほど、現状変更国からの脅威を同盟国は低減できる。しかし、バイデン大統領の発言のせいで米国にそのような覚悟があるのか疑いたくなる。

バイデン大統領はウクライナへの支援を拡大させない理由を第三次世界大戦に求めるのではなく、NATO非加盟に求めるべきである。なぜなら、米国がNATO諸国や日本などの防衛義務は第三次世界大戦のリスクを冒す前提で発動されるものであるからだ。

もし、そこで米国が即座に第三次世界大戦を理由に防衛義務を履行しなければ、それは同盟の解体を意味し、国際秩序の大規模な再編成を引き起こす不安定要因となりかねない。

その事態こそ、第三次世界大戦の必然性を高めることにつながる。

I’m addressing president Biden. You are the leader of the nation, of your great nation. I wish you to be the leader of the world. Being the leader of the world means to be the leader of peace. Thank you. Glory to Ukraine.