ドイツの難民問題専門家は、「2015年に中東・北アフリカから100万人以上の難民・移民が欧州に殺到して欧州連合(EU)はその対応で大混乱となったが、2022年のウクライナ難民問題と比べれば、ウオーミングアップに過ぎない。22年のウクライナ難民の殺到は戦後、最大規模の人間の移動だ」という。同専門家によれば、前者は1年間で100万人の難民が殺到したが、ウクライナからは毎週100万人の難民が欧州に避難しているという。
ジュネーブに本部を置く国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が20日発表したところよると、ウクライナの避難民の数は既に1000万人を超えたという。ウクライナの人口は2021年の国家統計局によると4159万人だから、国民の4人に1人が避難していることになる。国外脱出者は19日現在約339万人、残りは国内避難民だ。国際移住機関(IOM)などによると、ウクライナ国内で家を追われて避難生活を送る人は17日時点で648万人に達している。
2月24日から今月19日現在でウクライナ難民を受け入れている国の中ではポーランドが最大で約205万人だ。同国には欧州最大のウクライナ・コミュニティが存在するから、避難するウクライナ人の多くはポーランド国内に住む親族、知人に助けを求めるケースが多い。そのほか、ルーマニアに52万7000人、モルドバに36万2000人、ハンガリーに30万5000人、スロバキアに24万5000人と続く。参考までに、ロシアには今月17日現在で約18万4000人、ベラルーシに2548人がウクライナから避難している。
海外に逃れてきたウクライナ人は主に、ウクライナの“ディアスポラ”が既に存在するポーランド、ドイツ、チェコ、ポルトガル、イタリア、スペインなどに一時避難するケースが多い。例えば、オーストリア内務省の発表によると同国では20日現在、約1万4000人のウクライナ人が入国したが、その80%はドイツやイタリアに行くとみられている。
欧州はロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナから避難する国民を温かく迎えてきた。2015年の難民殺到時に比べ、ウクライナ難民のほぼ90%が女性、子供であり、「ブロンドの髪と青い目」の難民で民族的、文化的に近いという理由があるからだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍の侵攻直後、18歳から60歳の男性には国の防衛のために奉仕を要請した。だから、妻や子供を車に乗せてポーランド国境まで走り、家族を下ろすとウクライナに再び戻っていく男性の姿が多くみられた。
ただ、ここにきてウクライナから避難してきた女性や子供を狙った人身売買の犯罪グループが国境近くで暗躍しているという情報が流れており、受け入れる立場の欧州側はウクライナからの避難民の安全のために警戒を強めている。
難民を受け入れる欧州は2015年の時のように難民申請で時間を取らず、入国手続きを簡易化し、新しい身分証明書だけではなく、労働許可証まで発行する一方、就学年齢の子供には短期間の言語学習の後、地元の学校に通学できるように便宜を図っている。
ただし、ロシア軍の攻撃は少なく、安全と思われてきたウクライナ西部リヴィウなどに避難してきたウクライナ人(域内難民)がロシア軍の攻撃が激しくなってきたこともあって国外に避難する者が増えてきたため、国外避難民の数は今後も増えることが予想されている。
ブリュッセルの「難民政策研究所」(MPI)のハンネ・バイレンス所長は、「信じられないほどの数の難民が途方もないスピードで急増している」と語っている。短期間に多くの避難民を収容できる国はほとんどない。戦争が長期化すると、難民受け入れ側にも限界が出てくることが懸念されている。
例えば、ルーマニアやモルドバは欧州最貧国に属する国だけに、多数の避難民が隣国から殺到した場合、その収容能力、経済力にも限界があるから、EUは経済支援に乗り出している。
中長期的には、避難民を労働市場に統合させるための支援が必要となる。ウクライナ難民は経済難民ではなく、戦争難民であることから、その心理的影響、トラウマ対策など精神的ケアも大切となる。そこで欧州全般の避難民の状況、情報の交換などEUレベルのコーデイネーターの必要性が叫びだされてきた。
2015年の難民には欧州に定着し、労働する道を模索する経済難民が多かったが、ウクライナの避難民の多くは「戦争が終わり次第、一刻も早くウクライナに戻りたい」と願っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。