ウクライナへのヘルメットや防弾チョッキの供与は我が国が、法治国家ではなく、時々の都合で法解釈を捻じ曲げる人治国家であることを世界に宣伝したことになります。
3月8日の深夜、愛知県の航空自衛隊小牧基地から飛び立った1機の自衛隊機。載せていたのは、ロシアの侵攻を受けているウクライナへの支援物資、自衛隊の防弾チョッキとヘルメットだった。
日本が、まさに武力衝突が起きている国に、しかも、武器=防衛装備品の防弾チョッキを提供することは、前例がなかった。
2月末、防衛大臣・岸信夫の手元に、英語で記された1通のレターが届いた。差出人は、ウクライナ国防相のレズニコフ。
「ウクライナ軍は、特に、対戦車兵器、対空ミサイルシステム、弾薬、電子戦システム、レーダー、通信情報システム、無人航空機、防弾チョッキ、ヘルメットが深刻に不足している。私は日本とウクライナの連帯が強固であることを信じている」
相手は、日本は金満国家であり、世界有数の軍事費を使っている国だから潤沢にあると「誤解」していたのでしょう。
ですがこれらの装備は自衛隊でも不足しているわけです。その最大の原因は陸幕のカネの使い方が無茶苦茶で、戦争を想定していないからです。必要な装備の備蓄も殆どない。中隊規模の演習さえこなせればいいと思っているからです。
ですから、東日本大震災で痛い目にあったのですが、それももうケロッと忘れている。
そしてもう一つの誤解が、日本が軍事技術の先進国だというもの。軍事無線に適さない周波数帯を使っていることもあり、最新の広域多目的無線機も通じないことが多い。多額の費用をかけて改修したので、以前よりはましですが、それでも通じないことがある。
そして諸外国より通信速度が著しく劣っており、静止画、音声無線でしか使えない。
なにより装備が実戦ではなく演習しか想定していないものばかりで、実戦で使ったら大変です。まあ使ってもらってどれだけ駄目か検証し、責任を追求する手段にすべきだとは思います。
「防衛装備移転三原則」。以前は「武器輸出三原則」と呼ばれていた。武器は海外に輸出しない、昭和40年代から日本政府が堅持してきたルールだ。これが平成26年に「防衛装備移転三原則」に衣替えして、厳格な審査のもと透明性を確保して、一部、解禁された。
ただ、武力衝突が起きている国への供与は前代未聞だ。ウクライナ側の要望に防衛省幹部が戸惑ったのも当然だった。
「できることを探せ」
岸がそう指示した背景には、ウクライナへの前例のない軍事支援に乗り出す世界各国の姿があった
「日本だけが取り残されるのではないか」
こうした世界情勢の中で日本に何ができるかが問われていたと、防衛省幹部は振り返る。
つまり他国の顔色を伺って、バスに乗り遅れるな、と焦ったわけです。
岸の命を受けて始まった政府内の検討で、いくつかのハードルをクリアする必要性が浮上する。
その1つが「自衛隊法」だった。自衛隊法の116条の3は、開発途上にある国などに、自衛隊の装備品を譲与したり、廉価で譲り渡したりできるとする条文だ。
結果的に、政府が今回の支援で使ったのはこのスキーム。しかし、条文で武器と弾薬は送れないことになっている。殺傷能力があるためだ。
これは、本来はPKOなどで建機とか現地で使用した装備を譲渡するための法律です。違うのであれば「火の出ないおもちゃ」であるレーダーや武装を外した装甲車などもOKということになります。
その結果、候補として絞られたのは次の物資だった。
〈第1優先〉防弾チョッキ、ヘルメット、テント、発電機、防寒服、毛布、軍用手袋、カメラ、ブーツ。
〈第2優先〉医療器材、白衣、医療用手袋。
医療機材でも個人衛生キットは、新しいタイプは数も少ないし無理でしょう。ぼくが批判した前の、包帯、止血帯各一個の前の個人衛生キット送ったら先方が呆れたでしょう。
防衛装備移転三原則では、一部、武器などの防衛装備品の輸出が解禁されたが、「厳格な審査」と「透明性の確保」が謳われ、輸出が可能なケースがルール化されている。
その第1原則では「紛争当事国」への輸出は禁止されている。ロシアの軍事侵攻に対して武力で立ち向かうウクライナは、「紛争当事国」に見える。
しかし、外務省によると、防衛装備移転三原則で定義する「紛争当事国」は「国連安保理の措置を受けている国」。現在、該当する国はなく、過去に遡っても朝鮮戦争下の北朝鮮と湾岸戦争下のイラクしか該当しないのだという。
この定義がそもそもおかしい。そうであれば、中国、イエメン、アフガニスタン、ロシア、北朝鮮などにも輸出が可能であることになってしまいます。
本来であればホワイト国にして置けばよかったのです。
■ホワイト国(グループA / 優遇対象国)
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国。韓国は近年外されました。
これは恐らく米国との共同開発・共同生産を念頭に置いたものでしょう。米国がホワイト国以外に共同開発した装備を売ることを、忖度したからでしょう。例えばサウジラアラビアやイスラエルなどです。
なにより「普通の意味」での「紛争当事国」がNGならば湾岸戦争、イラク戦争、アフガンへの出兵、イエメンやシリアなどへの介入など「紛争常時国」であるアメリカとは共同開発も、輸出もできなくなります。
であれば同盟国とホワイト国に輸出先を限定すればよかったわけですが、ご案内のように米国がホワイト国以外に輸出するで問題が生じる、ということだったのでしょう。
当初、防衛装備品にあたると考えられていたのは、防弾チョッキとヘルメットだった。防衛装備品に該当するかどうかは「輸出貿易管理令」で細かく定められていて、「防弾衣」と「軍用ヘルメット」が記載されている。
しかし、同盟国でもなく、物品などに関する相互協力の協定を結んでもいないウクライナに防衛装備品を送る場合は、目的が「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5つに限定される。ロシアによる軍事侵攻が続いているウクライナは、どのケースにも当てはまらなかったのだ。
ここで浮上したのが、運用指針の“変更”だった。政府は、ウクライナを「国際法違反の侵略を受けている」国と明記。その上で、今回のやむをえないケースに限定するという形をとり、運用指針に新たな1項目を加える案をひねり出し、防衛装備品の防弾チョッキを送れるようにしたのだった。
ここが問題のキモです。
極めて厳格に定められている「輸出貿易管理令」を政権の都合で捻じ曲げたわけです。政権が「やむをえない」といえば中国やシリアに戦車も売れるという理屈になります。
因みに以前防弾チョッキは不思議なことに、輸入には規制が殆どなく、輸出には規制が厳しかったわけです。で、報道関係者が紛争地取材のため防弾チョッキを国外に持ち出すことができませんでした。こういうところは「極めて厳格」に運用されていました。だったら、今回の決定は何?という話になります。
政府の思いつきで、営々と積み上げてきた国家としてのポリシーを国会の決議もなく、政権の思惑で変えてしまう。こういう国が外国から信用されるでしょうか。
「異例のスピード」(政府関係者)での決着となり、初めて自衛隊の防弾チョッキが他の国に提供されることになった。
でこの3型防弾チョッキですが、採用されてしばらく経ちますが、陸自でもまだ行き渡っていない。備蓄なんて殆どありません。恐らくは来年度から支給するものを供与したのでしょう。
ですが、自衛隊で防弾チョッキの導入は他国より遅く、しかも実戦を想定した研究や試験を行っていません。本来マストであるべき、医学的な見地からの研究など殆どありません。それは何故か。
単に防衛装備利権でメーカーに仕事を落とせばそれでいいからです。
ですから2型ではモールシステムが外国と違う仕様になっています。モールシステムは防弾チョッキやバッグなどにポーチなどをつけるためのシステムですが、米軍の規格がデファクトスタンダーとして世界中に定着しています。
ところが自衛隊だけが独自の規格にこだわった。例によって「我が国独自の環境と運用」に合わせたものでしょう。ですがそれは単に外国製のポーチなどを排除するための非関税障壁でしかありません。
「我が国独自の環境と運用」というのは出入り業者の利権を守る、ということです。
同様に前後のプレートのサイズも日本独自規格です。他国ではNATOの規格に合わせています。北朝鮮はどうだか知りませんが。これまた「我が国独自の環境と運用」で出入り業者の利権を守るためです。
外国と違う規格であれば外国製品と性能、価格で競合することなく、できの悪い製品を高値で納入することが可能です。まるで悪代官と悪徳商人の関係です。
そして諸外国では当然のサイドプレートも装着されていません。
また現在は途上国でも、プレートのみを装着するプレートキャリアを採用しています。3型のようなソフトアーマーとプレートの組合わせだと重くなり、機敏に動けずに体力を消耗するからです。特に夏場になれば尚更です。
諸外国では前後にプレートを入れ、更に必要であれば腹部側面を守るサイドプレートを装着します。
夏場はシンガポール並に暑く高湿度は「我が国独自の環境」では無いんでしょうかね。
陸自はこのプレートキャリアすら導入されていない。さすがつい最近までトイレットペーパーまで隊員に自腹で払わせていた「軍隊」です。
この件は岸大臣にサンプルを見せて質問し、陸幕長にも質問したのですが、大臣会見後、会見室に「筆記用具」以外は持ち込むな、という決まりになってしまいました。
「保安上」の理由だそうです。国会記者証持っていれば、荷物検査なしで防衛省、そして中枢のA棟に荷物検査なしで入れるのに、です。
「保安」というのは、大臣が都合の悪い事実を突きつけられるリスクのことなのでしょう。
一方で、ヘルメットは、防衛装備品の「軍用ヘルメット」に該当しないと政府は判断した。今回、ウクライナに送る「88式鉄帽」というタイプのヘルメットは、民間で類似の物が販売されていることなどが、その理由とされた。
関係者によると、実は、政府内では、一時、ヘルメットの提供を見送る案があった。政府が防弾チョッキとヘルメットを送るという方針を発表したのは3月4日。
その前日の3月3日の内部資料には、ヘルメットの記載がなかった。前述のドイツが批判を浴びた経緯を踏まえ、官邸サイドから躊躇する意見が出たためだったという。
民間で売っている類似品ってこれですか? これが一国の「見解」なんでしょうか。平和ボケもいいところです。
確かに「酷似」してるけどこれ、防弾機能ないけどね。
SHENKEL 自衛隊装備 88式鉄帽 タイプ ハードシェル ヘルメット HeadGear ver.2 BK
まあ、防弾ヘルメットなんてどこの国でも作っていて大同小異だからいいならば、イエメンやシリア、スーダンとかにも輸出していいのか?ということになります。
88式鉄帽は小銃弾の直撃で貫通せずとも5センチは凹みます。つまり死亡する可能性が高い。しかも今の主流のパッド式の内張りクッションではなく、旧態然のハンモック式のハーネスです。つまり被弾で脳に深刻なダメージを受ける可能性が高い。少なくとも先進国の軍隊のレベルにはない代物です。
さて防衛省は供与した防弾チョッキやヘルメットに関しては、防衛省は追跡調査をすべきです。折角実戦に投入して「人体実験」するわけですから。
是非とも、その防御力や使い勝手をきちんと調査して記録に残すべきです。そしてそれが他国の製品に比べて劣っているのであれば、改良すべきですし、供与を許可した「偉い人達」は責任を取るべきです。
もし調査をしないのであれば、無責任どころか、供与の実績だけが必要でウクライナ人が死のうが怪我しようがしったことではない、ということになります。
【本日の市ヶ谷の噂】
清谷信一が大臣会見でサンプルを持ち込んで、プレートキャリアを未だ採用していない陸自の後進性について質した後、岸大臣の判断で会見場には筆記用具、PC以外は持ち込み禁止となったが、これは保安上の理由ではなく同様の追求を避けるため、との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。