独放送「ロシア軍苦戦の6つの理由」

ロシア軍がウクライナに侵攻して24日で1カ月目となる。ロシア軍がその規模、武器・軍備などあらゆる点でウクライナ政府軍を大きく凌いでいることから、短期戦で終わると予想されたが、ウクライナ軍の士気は高く、国民の抵抗も強く、1カ月を迎えても首都キエフを制圧できないでいる。アント二オ・グテーレス国連事務総長は22日、「ロシアはこの戦争には勝利できない」とはっきりと述べている。独公共放送「ドイチュラントフンク」(Dlf)は21日、ロシア軍が予想外に苦戦している6点の理由を挙げている。その概要を紹介する。

ウクライナのゼレンスキー大統領が国会で演説(2022年3月23日、日本首相官邸公式サイトから)

①ロシア指導部の戦略ミス

ロシアの指導部は、短期間で戦争を決着できると考え、「重大な戦略ミス」を犯した。軍隊は長い戦争に備えていなかったので、補給も十分ではなかった。そのためロシア軍は再編成を強いられている。短期武力紛争の代わりに、「血なまぐさい消耗戦」が控えているわけだ。ウクライナ政府、兵士の士気の高さも予想外だったはずだ。

②ロシア空軍が十分に動員されていない

空軍は戦争では地上軍を守る役割があるが、ロシア空軍は戦闘に加わらず、地上に留まっていた。ウクライナの対空防御は西側からの武器援助もあって予想よりも強力だったことがある。西側から調達したスティンガーミサイルとストレラミサイルを使用して、ウクライナ軍はいくつかのヘリコプターと戦闘機を撃墜している。ロシアの侵略戦争が始まる前に西側の軍事専門家が想定していたよりもロシア空軍は悪い状態にある。
ロシア戦闘機が民間のGPSデバイスで飛行しているほどだ。また、ロシア空軍は空対地戦で重要な精密な弾薬が十分ではない。

③ロシアの通信とロジスティクスの欠陥

ロシア軍には暗号化された無線機がない。場合によっては、兵士は通常の携帯電話を使用し、ウクライナ側に盗聴されている。軍用無線を介した無線トラフィックは、ウクライナのアマチュア無線家によって部分的に傍受されるという。ウクライナ侵攻開始から1カ月足らずで、ロシア軍の将官ら上級将校少なくとも5人がウクライナ軍の攻撃で死去した。ロシア軍の使用する通信システムが極めて旧式なため容易に傍受されていたからという。

コミュニケーションだけでなく、ロジスティクスも行き詰まっている。ロシア軍は、必要な物資を前面に送るトラックが少ない。ロシアの部隊は莫大な量の燃料、弾薬、食糧と飲み物に依存しているが、長い輸送ルートを長期的に管理する準備がなかったため、燃料、弾薬が不足している。

④ウクライナ軍の士気が高いこと

ロシア軍の士気は緊張下でますます低下、そのうえ十分な訓練を受けていない徴集兵が配備されている。一方、ウクライナ政府軍の兵士には国を守るといった強い意志がある。ウクライナ軍は2014年の時より準備が整っていた。

⑤ウクライナへの武器供給

ドイツを含む多くの西側諸国がウクライナに武器を供給、特に、戦車に対して使用できる兵器はロシアの攻撃を撃退する上で重要な役割を果たしてきた。例えば、ジャベリン対戦車ミサイルやパンツァーファウスト3が含まれている。ウクライナ軍は、スティンガーミサイルとストレラミサイルでロシア軍のヘリコプターと数機の戦闘機を撃墜した。

⑥ロシア軍は部分的にしか近代化されていない

ロシアは2008年以来、軍の近代化に乗り出し、戦争用のハイテク装備を開発してきたといわれているが、ウクライナ戦ではその近代化を見いだせない。ミュンヘンのブンデスヴェール大学政治学者のカルロ・マサラ氏は18日のポットキャスト「Sicherheitshalber」の中で、「率直に言って、多くは古いガラクタだ。ロシア軍が近代的な軍技術を隠しているのか、それとも想定されていたほど機能していないのかは不明。巡行ミサイルとロケットシステムは非常に機能している」という。

以上、Dlfの記事の概要をまとめた。

ロシア軍はこの1カ月で少なくとも2回、極超音速ミサイル(キンジャール)を発射し、ロシア軍の実力を欧米側に見せた。ここにきてロシアから化学兵器部隊がウクライナ入りしたという情報が流れている。プーチン大統領は状況次第では化学兵器を使用する意向と受け取られている。プーチン氏にとってウクライナ戦争は勝利しかない。プーチン氏は核兵器を使用することも辞さないだろう。

ウクライナ南東部マリウポリ市ではロシア軍の無差別攻撃が繰り返され、多くの市民が犠牲となっている。戦争犯罪を繰り返すプーチン氏にはもはや平和な「戦争後」はない。ロシアの国民経済は停滞し、国民の抗議デモは今後大規模なものに発展していくことが予想される。プーチン氏を国家元首として赤じゅうたんを敷いて迎え入れる国はほぼ皆無となった。今最も恐ろしいことはプーチン氏の暴発だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。