イスラ氏がZARAを退任、退職金30億円
世界アパレルの最大手インディテックスのCEOパブロ・イスラ氏(57)が3月31日をもって同社を去ることになっている。退職金1974万ユーロに加え、契約途中での退任ということで賠償金として325万ユーロを加算した2299万ユーロ(29億8800万円)が株主総会の合意を得て支払われることになった。
高額な退職金となったのも彼のこれまでの貢献度に加え、今後インディテックスのライバル企業で働かないというインディテックスの意向を反映させたものになっているからだ。
会社の時価総額を5倍にしたイスラ氏
パブロ・イスラ氏はインディテックスに入社する前は4つの銀行で勤務した経験あり、国家弁護士の資格を持ち、勤務していた銀行では法務部門に籍を置いていた。スペインのたばこ企業アルタディス社の社長として勤務していた時にヘッドハンティングされてインディテックスに入社。2005年のことであった。
それから17年間にイスラ氏は同社の時価総額を5倍にさせ、スペインで上場しているトップ企業35社の最高位の地位を占めるまでに成長させた。
イスラ氏が入社した当時は世界で30ヶ国余りに店舗を構え、その数は1000店舗、売上は30億ユーロ程度であった。それが現在では7000店舗近くまで数え、2021年度の売上は277億1600万ユーロ(3兆6000億円)を達成している。(3月16日付「OKディアリオ」から引用)。
イスラ氏の貢献度が高いものとしてインディテックスをアパレルを代表する世界企業に成長させ、迅速な配給システムの構築とネット販売をゼロから売上の25%を占めるまでに成長させたということだ。
イスラ氏の経営に異論を唱える役員が登場
しかし、最近はイスラ氏の経営方針に異論を掲げる役員らの存在が目立つようになっていた。その代表となっていたのが創業者の後妻フロラ・ペレス・マルコテ氏と彼女の兄弟でZARAのオスカル氏とMassimo Duttiのホルヘ氏だ。
世界を代表する企業に成長したのであるから各分野でプロフェッショナルの集まりになって行くべきはずが逆に家族経営に後戻りしている感じなのである。
イスラ氏は経営のプロとして会社が確保すべきマージンを基本的に守り、同社の特異とする商品の開発から消費者のアクセスの容易化と納品のスピードをさらに早める方向に向かっていた。その為にはアマゾンや中国のシーイン(Shein)などのライバルが脅威を増している中で常に市場拡大を貫こうとした。
ところが、それに待ったを掛けようとしているのが創業者オルテガ氏の後妻とその2人の兄弟である。彼らはこれまで築きあげたブランドの牙城が今後も確固たるものであるべく収益率を犠牲にしてでも宣伝費などをもっと上げて消費者の前にブランドのイメージをより安定したものにさせたいという考え方なのである。
イスラ氏は常に攻めの先方であるのに対し、後妻の方は守りにも力を入れて行くべきだという考えなのである。というのも、これまでインディテックスは宣伝費は非常に僅かで消費者の口込みや各都市のメイン通りに店舗を構えるということが媒体での宣伝よりも重要であるという考えであった。
それに対してイスラ氏は今後の市場はネット販売にあると見て、その為の開発費用をふんだんに充てるべきだとしていた。
結局、イスラ氏の存在が次第に薄れるようになり、また創業者の娘マルタ氏に経営をバトンタッチする時が近づいているという考え方に傾いていったのである。
パブロ氏は恐らく今後同氏の方針を貫くことは難しくなると考えたようだ。そのように考えてこのまま社内の留まるよりも退任することを選んだようだ。
それが突如の彼の退任となったもの。まだこれから2-3年はイスラ氏が経営を継続しその後にマルタ氏にバトンタッチするものと一般には見られていた。
どの企業でもイスラ氏の入社を歓迎
今後のイスラ氏の向かう先は不明だ。彼もそれを明確には表明していない。しかし、年齢57歳、インディテックスを世界トップの企業に成長させた経営手腕はスペインの企業界では非常に高く評価されている故に、イスラ氏をどの企業ももろ手を挙げて迎えるのは間違いない。