春の訪れを感じる風物詩:パリ復活祭のショコラ

加納 雪乃

パリの冬は暗くて長い。東京のように、寒くても青空であれば気分は上がるが、パリの冬空は、灰色が基本。よくて白、悪ければ濃い灰色で、青空を見られる日は運がいい。冬にオペラやバレエなどの華やかなスペクタクルが多くプログラムされるのは納得だ。エンターテイメントで気を紛らわせないと、長く暗い冬を乗り切れない。

そんな冬も3月になるとようやく影が薄くなり、春の気配がそこここに漂い始める。公園にはチューリップやクロッカス、スイセン、桜などが咲きほころび、マロニエやプラタナスは一斉に芽吹き、パリジャンは重たいコートを脱ぎ始める。そして、街には復活祭のショコラがあちらこちらで顔を出し始める。

統計によると、フランス人はショコラを一人当たり年間約7kg消費している。彼らがショコラをもっとも食べるのはいつかご存じだろうか?クリスマスを想像しがちだが、実はクリスマスシーズンよりも復活祭シーズンの方がショコラの消費量が多いのだそう。

キリスト教の祝日である復活祭は、移動祝祭日で3〜4月に訪れ(2022年は4月17日)、ショコラを食べる習慣がある。

復活祭のショコラといえば、新たな命の象徴である卵モチーフが定番。豊穣のシンボルのウサギやメンドリをかたどったショコラも多い。復活祭の数週間前から、ショコラトゥリーやパティスリーのショーケースには卵やウサギモチーフのショコラが賑やかに並びはじめ、これを見ると、あぁもう春も近いとしみじみ感じる。

スーパーマーケットからショコラ専門店や有名パティスリーまで、さまざまな復活祭ショコラが登場するが、中でも秀逸なのが、ラグジュアリーホテルの腕利きパティシエたちが手がけるアーティスティックな作品だ。

パリを代表するラグジュアリーホテルはいずれも、春には復活祭ショコラの、冬にはクリスマスのビュッシュ・ド・ノエルの新作を、毎年提案している。エレガンスとラグジュアリーの粋を投影した作品は、まるでアート。これらのホテルの、今年の復活祭ショコラ作品のプレス発表会の様子を紹介しよう。

「リッツ・パリ」は、ホテルのアイコニック菓子マドレーヌをモチーフにしたショコラの中に、キャラメルとプラリネを詰めたミニマドレーヌショコラがぎっしり。

「シャングリ=ラ・パリ」は、ホテルのシンボル”ミツバチ”をテーマに、ミツバチ小屋の中に入れたプラリネ製の卵型ショコラ。卵ショコラの中には、別のプラリネショコラのオーナメントが潜んでいる。

「マンダリン・オリエンタル・パリ」は、ファベルジェの卵オブジェを彷彿させる美しく繊細な細工のショコラ&プラリネ。中央の小さなショコラを割るとシルバー製の卵型ペンダントが出てくる。ジュエリーデザイナーとのコラボレーション作品で、売り上げは全額慈善団体に寄付される。

「プランス・ド・ガール」は、卵を重ねた砂時計のデザイン。砂の代わりにナッツやチョコレートを忍ばせた。

味覚のみならず視覚でも楽しませてくれる、春の風物詩。この時期にパリに来る機会があれば、街中に溢れる復活祭ショコラにぜひ目を向けてほしい。