プーチン氏の愛人はスイスにいない?

ちょっと週刊誌的なテーマから始めたい。ロシアのプーチン大統領の愛人の行方だ。欧州のメディアではアルプスの中立国スイスにプーチン氏の愛人、アリーナ・カバエワ氏が生活していると報じられてきた。新体操の元五輪代表アリーナ・カバエワ氏は2015年、スイス南部のティチーノ州ルガーノ市で女児を出産したが、女児の父親はプーチン氏だというのだ。ただし、ロシア大統領府報道官はカバエワ氏のスイス居住説も女児の父親がプーチン大統領説も否定してきた。

スイスの観光地ツェルマットから眺めるマッターホルン(スイス政府観光局から)

スイスはさまざまな噂や情報が生まれる土壌がある国だ。スイスには安楽死を願う人々が世界から集まる一方、世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”と呼ばれる。ウラジーミル・レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、ジャン・カルヴァンはスイスに逃れて宗教改革を起こした。

カバエワさんがメディアの目から逃れるためにモスクワを脱出、アルプスの山脈を眺めながら静かな日々を送るためにスイスに居住していても不思議ではない。スイス国民は逃げてきた人に対しては懐が深いところがある。ひょっとしたら、プーチン大統領もウクライナ侵攻がうまくいかなくなった場合、軍部のクーデター説が流れ出しているから、スイスに政治亡命する日が出てくるかもしれない(プーチン氏は戦争犯罪でハーグの国際刑事裁判所(ICC)から起訴される可能性のほうが現実的かもしれないが)。

話はロシア軍のウクライナ侵攻問題に入る。31日で既に開戦36日目を迎えた。トルコのイスタンブールでロシアとウクライナの外交交渉が開催されたが、大きな成果はもたらされていない。ロシア軍が首都キエフから部隊を一部撤退させたといった情報が流れる一方、西側の軍事専門家は、「4月1日はロシアで新しい徴兵が行われる日だ。これまでの兵士は去り、新しい徴兵のもとスタートする。ロシア軍はウクライナに派遣できる契約兵士を可能な限り広く徴兵する予定だ。そして4月中旬には新たな攻撃を開始できる体制を整えるはずだ。それまではマリウポリとドンバスでの行動を除けば、ロシア軍は地盤を固め、再編成し、ロジスティクスを管理しようとするだろう」と予想している。

ところで、ロシア軍のウクライナ侵攻以来、欧州の4カ国の中立国では中立主義の見直し、北大西洋条約機構(NATO)加盟問題が新たにホットな政治課題となってきている。その一国、アルプスの中立国スイスはロシアがウクライナに侵攻した直後、欧州連合(EU)の制裁に全面的に追随することに消極的だった。だが米国やEU、国内世論の圧力を受け、スイス連邦政府は2月28日、欧米の対ロシア制裁に参加を表明した。そのニュースが流れると、「中立国スイスの伝統にも変化の兆しが見られてきた」と報じられたほどだ(制裁実施や紛争地への武器供給が即、中立主義の放棄を意味しない)。

スイスは3月4日にはロシアからの輸入を禁止し、ロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除するなど、金融活動に幅広い制限を課した。そして16日には、ロシアの個人や企業・団体に対する制裁対象を拡大し、ロシアとベラルーシのオリガルヒ(新興財閥)や著名な実業家を含む個人197人と9つの企業・団体がリストに追加された。ロシア人実業家のロマン・アブラモビッチ氏も含まれる。スイス・メディアによれば、新たに制裁対象となったロシア人のうち4人はスイスに住んでいる。

スイスの首都ベルンで3月19日、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモ集会があり、数千人が参加した。ウクライナのゼレンスキー大統領がキエフからライブストリーミングで演説し、スイスに対してはロシアのオリガルヒの資産と口座を凍結するように要求している。スイスのニュースサイト「スイス・インフォ」によれば、スイス国内の銀行が保有するロシア人顧客の資産は総額2000億フラン(約25兆円)に上るという。

欧州の中立国の中でも、NATO加盟を模索し出した北欧のスウェーデンやフィンランドとは異なり、スイスは隣国オーストリアと同様、中立国の立場を放棄する考えはない。ロシア外務省から中立主義の堅持を要求されたオーストリアのネハンマー首相は、「わが国は軍事的には中立主義だが、政治的には中立ではない」として、ロシア軍のウクライナ侵攻を厳しく批判している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。