ウクライナ戦争の行方とその後の世界

ゼレンスキーとプーチンの会談開催が近く見込まれ、ウクライナ戦争に漸く停戦の兆しが出てきた。

筆者は予てから、そもそも妥協策によって開戦は避けられたと考える立場であり、一日も早い停戦成立を願って止まない。(<参考拙稿>「緊迫のウクライナ情勢:各国は妥協策を探れ」)

しかし、ウクライナ、ロシア両国間で停戦条件の擦り合わせは続いており、またここに来てロシア軍による民間人虐殺報道等も出ており予断を許さない。

Valentina Shilkina/iStock

ここで、この戦争の主要プレイヤーのスタンスと思惑を筆者なりに推測すると概ね下記の通りである。

◆プーチン: 大ロシア帝国への野望はあるが、現下の国力と照らしNATOへの危機感と嘗ての覇権国家としての矜持とロシア系住民保護の観点から、ウクライナの中立化、クリミアの確保、東南部の独立承認等を目指す。

◆ゼレンスキー: 大統領選当選前後ではロシアとも対話するスタンスであったが、政権維持とアゾフ連隊等政権内部からの圧力による家族の生命も含めた危機回避のため、対露強硬路線を取っている。また非ロシア系ウクライナ国民にとっては、領土割譲等は受け入れ難い。

◆アゾフ連隊: ウクライナ軍に正式に組み入れられた過激武装集団。歴史的にモンゴルの血が入ったロシア人を非白人と見て、ウクライナからの駆逐を目指す。

◆バイデン: 今秋の中間選挙を視野に、アフガン撤退不首尾の失地回復、トランプの盟友であるプーチンの悪魔化、息子ハンター・バイデン氏を通したウクライナ収賄疑惑の矮小化等のために戦争の長期化を望む。

◆英国: 米国と平仄を合わせ、EUとロシアを対立させ両者の弱体化を狙う。

◆軍産複合体: 対空スティンガーミサイルや対戦車ジャベリンミサイルを含めた兵器ビジネスの利益最大化のため、戦闘の長期化を望む。なお米軍部は死傷者が出る直接参戦より現状の兵器供給、訓練、作戦支援に留めたい。

◆ウォール街・ビジネス界: 金融相場が荒れる事と、軍需、シェールガス輸出、復興需要等で利益機会を狙う。

◆ネオコン: 民主化を至上価値とし、手段は問わない傾向がある。

◆習近平: 漁夫の利を狙う。戦闘長期化ならロシアへの経済制裁により、資源輸入先としてもロシアのジュニアパートナー化を高められる。また停戦調停仲介等に関与すれば中国の国際的地位を高められ、どちらに転んでも利益になる。一部に習近平がロシアのウクライナ侵攻に「頭を抱えている」という類いの言説があったが、「腹を抱えている」の間違いだと筆者は考える。

上記のように、当事者のプーチンとゼレンスキー以外は、戦闘の長期化を望んでいるか、少なくとも短期の停戦合意を強くは望んではいないと筆者には思える。

プーチンが化学兵器や核兵器を使う可能性は、戦局が極端に悪化しない限り現状では高くないと見られる。プーチンがウクライナ側のせいにしてこれらを使うか、あるいは逆にウクライナ側がプーチンのせいにして使う事も第三次世界大戦を招きかねないため、今のところは合理性が見出せない。

だが、アゾフ連隊、ネオコンには、目的のためには手段を択ばない傾向があり懸念される。また、バイデンも自身の疑惑がいよいよ煮詰まったとき、むしろ第三次世界大戦の際まで行く事を望みプーチンを挑発し続ける事も考えられ注視が必要だ。

なお、中国が停戦調停仲介等で国際的地位を高めた場合は、米中対立に腰が引けているバイデン政権と巨大なマーケットを手放したくないウォール街・ビジネス界とそれらを取り巻くマスメディアは、台湾を習近平に売り飛ばす口実を得る。

曰く「国際秩序に貢献を果たし大きな責任を担う中国による台湾併合は、恣意的動機により他国を攻めたロシアのウクライナ侵攻とは質的に異なる」云々の妄言を弄し兼ねない。昨今中国はそのための理論作り、言論工作を日本を含めた各国でやり始めている気配も筆者には感じられる。

何れにしても、中国の関与を最小限にして早期にウクライナ戦争を収束させ、中露疑似同盟に楔を打ち込み、ロシアを寝返らせての「拡大中国包囲網」の構築無くしては中国の世界覇権を抑える事は不可能と思われる。

ロシアは「何ちゃって民主主義」で言論の自由も制限されているが、中国ではそもそもこれらは皆無に等しい上に、唯物論国家のため道徳が担保される縁がない。もし共産中国による世界覇権が確立された際には、ウイグルから漏れ出た証言に照らせば他民族に対する人権侵害は想像を絶するものになるだろう。

地獄への道は、単なる善意というよりも偽善と強欲と無明で舗装されている。