戦争犯罪と調査報道

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今回のプーチン・ロシア軍によるブチャをはじめとする虐殺。言うことを聞かず徹底抗戦するウクライナ人を地球上から消し去る蛮行だ。昔ナチスがユダヤ人にやったことに似ている。一部の識者が指摘するように、「民族浄化」「ジェノサイド」の可能性が高い。昔ナチスがユダヤ人にやったことに似ている。

まだ100%の確証は得られていないが、民間人を縛って拷問、射殺した。子供を故意に殺したのも間違いない。明らかに戦闘による巻き添えではない。一説によると、KGBの流れを組むロシア諜報機関が大きな役割を果たした可能性もある。

今回ロシア軍は、普通の市民が乗っている自家用車も、戦車で轢き潰した。画像が残っている。

この情報に接した時、昔のアフガン取材で得た話を思い出した。1997年、今回に似たような侵略をロシアはやった。抵抗できなくなったアフガン人捕虜を、地面に寝かせて、戦車でロシア兵がひき潰したという証言だ。イスラム教徒らの戦い方は、戦闘員も非戦闘員も、なかなか一線が引けないこともある。だが、捕らえた生身の人間を、ロシア兵は生きたまま戦車で轢き潰した。戦闘員も非戦闘員も関係ない蛮行だ。

北方領土違法占領、シベリア抑留なども直接取材して、ロシア兵の残虐行為を再確認した。略奪、婦女暴行、なんでもありだったといえる。当時からロシア兵の狂暴性は知られており、暴行されるのを恐れて、「集団自決」した日本の若い女性も多数いた。

これは幾つも似たような事例があり、長くなるので、別稿に委ねる。

多分、どこの国軍にもあるだろうが、米軍には戦闘中の行為に厳しい規則が課せられる。ジュネーブ条約などの国際的な約束ごとや、英国などから引き継ぐ国内の伝統的なルールだ。やはり、非武装の民間人や白旗を掲げた相手兵士を殺してはいけない、捕虜を虐待をしてはいけないというようなものだ。非人道的とみえる行為が絡むと、すぐに「おい、コ―トマーシャルだぞ」という言葉が出る。軍法会議という意味で、軍人の軍人による軍人のための裁判。民間の裁判では届かない「上官の命令」「愛国心」「国防心」などが争点にもなる。やはり人命が多く関わるケースが多く、有罪になると刑罰はかなり厳しい。

このような厳しい規則があっても、現実はなかなか上手くいかない。

有名な事件が、ベトナム戦争中のソンミ(ミライ)村の虐殺。1968年米軍が小さな村の住民を大量虐殺した。乳幼児、妊婦など非武装市民500人くらいが機関銃などの餌食になった。反米軍ゲリラのベトコンの疑いがあったという言い訳もあったが、米国の調査報道が事実を暴いた。予想通り、戦争犯罪をした米国の評価は、一気に地に堕ちた。だが、他国ではまずない。自国政府をしっかり批判できる米国の「報道の自由」の凄みを、世界が知った。

セイモア・ハーシュと筆者
筆者提供

その中心人物でピュリーツア賞に輝いたのが、調査報道記者である筆者の先生の1人、セイ(セイモア・ハーシュ)だ。彼だけでなく、当事者も取材したが、間違いなく米軍史上最悪の戦争犯罪と、そのウソを暴いた出来事と言える。

セイの報道は米国世論を変えてベトナム戦争を終結に導いた。もう1つ、事実を公にして米政府の信頼を失わせたのが「ペンタゴン・ぺーパーズ(国防総省文書)」だ。

ダニエル・エルスバーグと筆者
筆者提供

自分の刑務所入り覚悟で盗み出し、公開したのが、やはり先生の1人、ダニエル(ダニエル・エルスバーグ)。既に映画や小説にもなり、永遠に語り継がれる勇気ある行動だ。

今回あれだけ(ほぼ間違いない)ウソにウソを塗り固めているロシア当局による虐殺の事実を暴くことを望む。ロシア国民が事実を知れば、少しは状況が改善する。筆者が大分前から高評価を与えているオープンソース公開情報分析と市民提供情報の利用も役立つ。それに加えてロシアにも、セイやダニエルが必要だ。

地球上、全ての政府がウソをつく。

今回の蛮行をみて、ファルージャなどイラク戦争、アフガン戦争で、たくさんの米兵を取材した経験、特にPTSDになった米兵を思い出した。異常な戦争体験で心の病を患い、眠れない、夜中起きて叫び出す。普通では考えられないことで苦しむ人々だ。

通常、米軍は精神的に問題を負った兵士の取材をさせてくれない。できても、退役兵ばかりだ。筆者は特別の許可を得て、治療を受けている現役兵士の直接取材をした。米メデイアでも殆どない非常に稀な取材といわれた。彼や多数会って話を聞いた他の元兵士の体験は、本当に悲しいものだ。

1つの例を挙げよう。アフガン戦線で、彼はかなりの距離からイスラム過激派らしき人間を認識した。銃を持っているように見えた。結局彼は射殺したが、現場に行ったところ、非武装の民間人で、さらに近くにいた子供も死んでいた。彼は銃を捨てて、治療を受け始めた。

彼にとっては、民間人を殺すということはどんな理由があっても許せないことで、自分自身を責め続けた。

このケースは、戦争犯罪とは言えないかもしれない。非武装の民間人という認識がなかったと言えるからだ。それでも非武装民間人を殺すことへの違和感・嫌悪感は、普通の人間ならかなりの程度あるはずだ。それができてしまったと思われる今回のロシア軍による蛮行はなぜ?という疑問が消えない。一説では、通常のロシア軍とは違う諜報機関の人間がやったという議論もある。しかし、それでも人間として、どうして?という疑問は残る。

民間人への攻撃は、戦争捕虜への攻撃との共通点がある。筆者は太平洋戦争時の旧日本軍による、米豪兵士への蛮行もたくさん直接取材した。捕虜虐待で最悪死刑になった日本のBC級戦犯の裁判資料もかなり読んだ。日本軍の1人となった在日韓国人もいて、本当に涙無くしては読めない。

無抵抗の米豪軍捕虜を殺す時、あったといわれる上官の命令をどこまで断れなかったのか、自分の意思がどこまであったのかなどが、重要な争点の1つだった。

実際の事件の例は以下だ。米兵捕虜を丸太に縛り付けて、銃剣で刺殺。一説では焼き殺したケースもある。墜落したB-29の乗組員を殺した。日本の民間人女性も虐待に参加したという情報も。(同時に追い詰められた米兵におにぎりを渡したという話もある)当時の米兵の話を聞くと、ほぼ全員が日本の捕虜になったら殺されると思っていた。

米国では「真珠湾」に次ぐくらい有名な「バターン死の行進」。当時日本兵自身も食糧に困っていたこともあり、食べさせないで、歩かせ、衰弱死させた。日本は自国への被害は大きな声でいうが、他国への加害に関しては沈黙が多い。それもあり日本ではあまり話題に上らないが、米や豪国人と話すと、すぐに出てくる蛮行だ。

有名な「南京虐殺」。いつものように、基本的に人が書いたものを元に、なにか言っている普通の人と、筆者は違う。映像など一次資料や当事者、公式文書を元に史実を暴き出す。虐殺された「人数」は、永遠の議論の対象だが、そこは大きな論点ではないだろう。重要なことは間違いなく無抵抗の市民多数が殺された。5人だから、50人だから、5000人だから、50万人だから良いとか悪いとかいう話ではない。

生物・化学兵器を開発する731石井部隊が、やはり無抵抗の中国市民を、丸太に縛り付け、細菌・化学物質を浴びせ、体内がどう変わっていくか研究するために「生体」解剖したことも事実だ。明らかな戦争犯罪だ。(自分でできない米軍は免責と引き換えにデータだけ頂いた)

沖縄戦では、捕虜にした米兵を殺して性器を切り取り、口に突っ込んだ。形勢が逆転、大分経ってから、その友人の死体をみた海兵隊員は、怒り頂点。両手を挙げて投降した日本兵を皆殺しにしたと、筆者に言った。さらに沖縄で米海兵隊は、銀行強盗をやり、婦女暴行をした。本人から直接聞いた話だ。

憎悪が憎悪を生み、復讐が復讐を生み、戦争は人間を狂気に駆り立てる。上からの基本的な命令、暗黙の指示、アドバイスがあれば、いやなくとも、かなり非人道的なことをやる。

この種の行為は数と質の違いはあるが、世界中どこでもある。戦争犯罪とかいう。戦争はもともと許されないことで、地球上から無くす必要があるのは、論を待たない。だが数千年、懲りずに人類はやってきた。女性は通常戦争を始めない。やはり男がいる限り、なくならないのだろうか。

「戦争」と「戦争犯罪」の一線を引くのは難しい。当然、両方とも悪魔の行為、全力で全廃するべきだ。しかし比較論だが、戦争犯罪は無くすのが、まだ可能のはず。一刻も早く、地球上から無くすべきだろう。

それには、「言論・報道の自由」が大前提、人間の倫理観の徹底に加えて、国際的な組織、枠組み、執行力が必要だ。国連と同じように、国際刑事裁判所は、今回のような核大国が暴挙を始めると、阻止・摘発に向けて殆ど機能しない。米国にも特効薬はないようだ。だが諦めないで、努力継続しかないのだろうか。