4月11日朝、ITmedia ビジネスオンラインに「マツダのラージPF、CX-60プロトタイプに乗る」が掲載された。
この記事のコメント欄に「CX-60ってアメリカで売らないでしょ?」という書き込みがいくつかあった。
CX-60はマツダの社運を賭けたラージプラットフォームの頭出しであり、ラージプラットフォームはマツダの未来を担う超が付く重要プロジェクト。
よって、ボクの認識としては、CX-60単体の記事というつもりは全くなく、ようやく出て来たラージ第一弾のCX-60をきっかけとして、ラージプラットフォームの戦略を検証するという所に興味の99%が向いている。
マツダがFR6気筒という極めて特異な構成を選んだ理由は明確にアメリカマーケットにある。マツダは2030年にグローバル生産台数の25%をBEVにすると発表しているが、猫も杓子もBEVを作ろうとする中で、当面バッテリー原材料価格は、奪い合いになって高騰するのは目に見えている。すでに利益率の薄いBEV市場で、原材料争奪戦が長期継続すれば、事業として儲かる可能性は限り無く薄い。マツダだけでなく「余裕を持ったプレミアム価格」が許されるメーカーでない限り、どこも同様のことが起きる。
となれば、残りの75%で従来同様の利益を出さなければ業績が低下する。25%が戦力外になった分75%で従来並みの利益を上げる工夫をしなければならない。
マツダは、リーマンショックからの回復のペースとその内容から、最も信頼できる経済の強さを持っているのはアメリカであると確信を持ち、アメリカで高付加価値販売を成立させるにはどうすべきかを考えた。
「可能ならV8、最低でも6気筒。4気筒はお金が無い人が乗るクルマ」という文化がいまだに色濃く残るアメリカで、高付加価値販売を成立させるにはどうしても6気筒エンジンが必要だった。従来の開発リソースを最大限活かしながらアメリカ人が好む商品を作るために選ばれたのが直6FRというレイアウトで、恐らくアメリカ向けにはガソリンのマイルドハイブリッドが出て来ると思われる。
というわけで、アメリカで勝つためにはこうすべきだという、じっくり練り上げられた戦略が明らかにそこにある。だから当然CX-60のチェックは、CX-60そのものがアメリカで売られるかどうかとかは全く関係なく、今後出て来るCX-70、CX-80、CX-90の中のどれか ── つまりそれはアメリカ主力車種ということなのだけれど ── がちゃんと狙ったマーケットで訴求できそうかどうかを中心に検証したつもりだ。
そこがわからないと、マツダの生存戦略がどうなるかが分からない。個別車種の話とは全くレベル違いに重大なことだとナチュラルに思うのだけれど、もしかして、読者の一部はそういう全体の企業戦略のことなんかよりCX-60の国内マーケットでのバイヤーズガイドを求めているということなのか?
でもそういう記事は他の人がいっぱい書いているし、何もボクに求めなくても良いんじゃないのかなぁ。まあ書き手として反省すべき点としては、「今回の記事はラージ全体の話だよ」というメッセージを十分に込めたつもりだったけれど、足りなかったということか。
ただ正直に言えばまさかそんなところでつまずく人が何人もいるとは全く思っていなかったんだよねぇ。
編集部より:この記事は自動車経済評論家の池田直渡氏のnote 2022年4月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は池田直渡氏のnoteをご覧ください。