値上げをものともしないココイチの強さ

関谷 信之

ココイチ(=カレーハウスCoCo壱番屋 以下ココイチ)が値上げします。

「ココイチ」にも値上げの波 カレー33円アップ、ロースカツも|朝日新聞デジタル

カレーは33円、トッピングは11円(ハンバーグは12円、ロースカツは22円)の値上げ。理由は、肉や食用油の高騰とのこと。ココイチが値上げするのは珍しいことではありません。2014年450円だったポークカレーは4回値上げし、現在514円。今回の値上げで547円となります。

固定客が多いため値上げしても影響が小さい、と言われてきたココイチ。今回はどうでしょうか。カレー店という業種の特性と、ココイチの特徴を考察したいと思います。

カレーは儲からない

カレー店(いわゆるカレーハウス)は儲からない業種です。他の飲食店に比べ客単価が低いからです。

立ち食いそば屋やラーメン屋で酔っ払いを見かけることはあっても、カレー店で見かけることは少ないはず。カレーライスは、酒と相性があまりよくないのです。ラーメン店のように、「餃子とビール」などと酒を飲むわけではない。注文する品数(買上点数)が少ない。だから、客単価が低くなってしまうのです。

では、ココイチはどうでしょうか。

ココイチの強み

ココイチの強みは「客単価が高い」ことです。

カレー業の「弱み」が、ココイチの「強み」。その理由は、ココイチが売っている商品が、カレーではなく「トッピングカレー」だからです。

私見ですが、ココイチのカレールーは、これといった特徴がありません。何にでも合う、というよりも

「何か付け合わせしないと物足りない」

ココイチのロースカツカレー(筆者撮影)

ように感じます。だから、多くの客はトッピングします。ココイチのトッピングラインナップは40種以上。物足りないカレールーと、豊富なラインナップが、トッピングを誘発するのです。

結果、客単価が高くなります。

一般的なカレー店の客単価は650~800円程度(※1)といわれています。ココイチのカレーも514円(ポーク)と、決して高くはありません。しかし、カレーだけの客は少なく、2品以上トッピングする客が「41%」を占めます。結果、客単価は983円(※2)と高い水準となっています。

今回の値上げは、さらに客単価を押し上げ、千円を超えることになるでしょう。千円を超える価格でも、客数は減少しないのでしょうか。

千円を超えたらどうなるか

固定客はあまり減少しないでしょう。

ココイチを代替できる飲食店がないからです。ココイチはカレー店というよりも「トッピングカレー」専門店です。1億種あるというトッピングとルーの組み合わせ(ココイチ調べ)を、マニュアル化されたフランチャイズ(ココイチではブルームシステムと呼びます)で提供する。その体制を模倣できる外食チェーンは、いまのところ出現していません。

これまでも価格が上がるたびに「客離れ」が指摘されてきましたが、大きな影響はありませんでした。今回も、大きな固定客離れは生じないと思われます。

一方、新規顧客の獲得は相当困難になります。

ココイチでは、11時から14時の利用客が、全体の「43%」を占めます(※2)。ランチタイムが主戦場です。ランチの価格が千円を超えると「高い」と感じる層は半数以上(※3)。今後、所得増が見込めないこともあり、新規顧客獲得は難しくなります。

固定客は微減、新規顧客獲得は困難。よって、今回の値上げは、短期的に影響は少ないものの、中長期的には悪影響を及ぼすでしょう。

客離れを防ぐ策は「細分化」

「千円越え」には、ココイチもやや危機感を抱いているようです。

ココイチの今春の期間限定商品「彩り野菜とキーマのスパイスカレー」は、通常より50gライスを減らし、価格を千円以内に収めました。

また、客離れを防ぐための策を実施しています。一つは注文サイズの細分化、もう一つはセット価格の導入です。

「『クリームコロッケ(2つ)』は多すぎて頼めない」

躊躇する客を見たことがあります。

ココイチのトッピング、特に揚げ物は量が多めです。そこで、今回の値上げと合わせ、注文するサイズを細分化しました。2つだったクリームコロッケを1個だけ頼める「ハーフクリームコロッケ」。チーズの量が半分の「ハーフチーズ」。さらに、100g単位だったライスに250gと350gの中間サイズを追加。

量を減らして支払う金額を減らす。そんな選択ができるようになりました。

値上げはするけど値下げはしない

また、これまで「禁じ手」だったセット価格を導入しました。

単品170円のサラダが、セットだと130円になります。

ココイチは、値下げはもちろんセット価格導入にも「消極的」でした。これは創業者である宗次徳二氏の信念に基づくものです。

当社のFCオーナーからは、商品値下げの要求がたびたび起こりました。「売上が落ちているので値下げキャンペーンをしたい」とか、「商品のセット割引を認めてほしい」とか、いろいろありました。しかし私は信念があったので、値下げは一切認めなかった。もし値下げをすれば、まず自社の利益が削られます。すると、取引先に無理を言い、従業員に過重労働を強いることにつながります。そんな手法は経営者として恥ずかしいことです。

私の経営学 4(宗次徳二 他著)|商工中金経済研究所

創業者が引退して20年。ハウス(ハウス食品グループ本社株式会社)傘下となって6年。今回の、セット販売導入は小さな変化ですが、今後の大きな変化につながるかもれません。

カレーは「贅沢品」

昨年後半から、飲食チェーンの値上げが相次いでいます。

かつて気軽に食べていたハンバーガーや牛丼、そしてカレー。いまや、ちょっとした贅沢品となりました。価格に見合う商品が提供できるか。外食産業にとって厳しい時期はまだまだ続きそうです。

【参考 注釈】

※1 カレー店客単価 参考
カレーショップ | 業種別開業ガイド | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

※2 ココイチ客単価等
2022年2月期 決算説明用補足資料より算出

※3 ランチ価格 参考
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