ロシアは「イースター休戦」に応じよ

キリスト教会にとって最大行事ともいうべき復活祭(イースター)が17日、挙行される。キリスト教会の最大宗派、ローマ・カトリック教会では同日、バチカンでローマ教皇フランシスコがサンピエトロ広場で記念礼拝をし、同日正午、世界の信者たちに向かって「ウルビ・エト・オルビ」の祝福を発する。新型コロナウイルスのパンデミックを受け、縮小されてきた復活祭の行事は3年ぶりに通常の式典に戻る。

聖金曜日の「十字架の道行き」に参加したフランシスコ教皇(2022年4月15日、バチカンニュースから)

復活祭は十字架で亡くなったイエスがその3日後に復活したことを祝う日だ。そして「復活イエス」から新たにキリスト教が始まることから、キリスト教会ではイエスの生誕日のクリスマスと共に2大祝日として盛大に祝うのが慣例となっている。

同じ時期、ユダヤ教では「ぺサハ」と呼ばれる過越祭を祝う。奴隷の身であったイスラエル人がエジプトから神の約束の地カナンに向かって、モーセの主導のもと出国したことを祝う。家族で食卓を囲み、マッツァー(種入れないパン)などを食べながら祝う。ユダヤ暦に基づき、今年は4月15日から開始され、同月22日まで続く。

一方、イスラム教では既にラマダン(断食月)が始まっている。ラマダンはイスラム教徒の聖なる義務、5行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)の一つだ。幼児、妊婦や病人以外は参加する。ラマダンの1カ月間は日の出から日の入りまで身を慎み、断食し、奉仕する。ラマダン期間は信者はイスラム寺院に頻繁に通って祈る。

今年のラマダンは4月3日から開始され、1カ月後の5月2日で終了する(イスラム教国の中でも一日前後のズレがある)。ラマダン期間は日没後、家族や知人、友人を招いて盛大に断食明けの食事を楽しむ。時には、この期間体重が増える信者もいる。断食明けの食事の食べ過ぎが原因だ。

アブラハムを「信仰の祖」とするユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大唯一神教がほぼ同時期に重要な宗教イベントを祝うことはまれだ。信者たちの信仰が高揚するといわれるこの期間、同時に、「それゆえに」というか、さまざま衝突やテロ事件が発生しやすい期間だ。

イスラエルのテルアビブで7日、パレスチナ人が銃を乱射し、3人が死亡、10人以上が重軽傷を負うテロ事件が発生し、15日にはエルサレム旧市街のイスラム教礼拝所(モスク)周辺でパレスチナ人がイスラエルの治安部隊と衝突し、150人以上が負傷するなど、テロ事件が頻繁に起きている。イスラエル当局はさらなるテロ攻撃に警戒を強めている。「ラマダン期間前後には気をつけよ」といわれるが、残念ながら当たっている。

イースター週間を迎えたバチカンでは15日の聖金曜日、ちょっとした波紋があった。イエスが十字架に架かった聖金曜日、ローマのコロッセオで2000年前のイエス・キリストの歩みを思い出す伝統的な「十字架の道行き」の行事が行われた。イエスの受難から復活まで15の場面に、選ばれた家族や信者代表が自身の人生を振り返りながら祈りを捧げる。その13番目の場面に登場したのはローマに住むウクライナ人の看護師とロシア人の看護学生の2人だった。彼女らは黒い木製の十字架を持ち、連帯と平和を訴えて行進した。

問題は、キーウのローマ・カトリック教会のヴィタリー・クリヴィツキー司教が、「ウクライナ人とロシア人の2人の女性をクロスベアラーに選び、平和と連帯を証言するシーンは、ロシア軍の侵略で苦しむウクライナの人々には理解できないだろう」と指摘、ウクライナ戦争に対するバチカン側の捉え方に疑問を呈したのだ。ウクライナのカトリックメディアは抗議してローマから「十字架の道行き」を生放送せず、ウクライナのバチカン特使、クルボカス大司教は、「和解は攻撃が停止された後にのみ考えられることだ」と主張し、ロシア軍が激しい攻撃をしている時に和解と連帯を演出することは間違いだと主張している。

いずれにしても、3宗派の重要な宗教行事が同時期に行われるということは、ひょっとしたら神の御心かもしれない。3宗派が本来、兄弟だということを改めて思い出させるからだ。

ちなみに、ウクライナとロシアの主要宗派は正教会だ。正教会では復活祭は4月24日に祝う。戦争勢力間で過去、「イースター休戦」や「ラマダン和平」と呼ばれる停戦があった。同じように、ウクライナとロシア両国間で「イースター休戦」が実現することを願う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。