自治体職員、議員、首長の政策への関わりを理解する:自治体と協働して政策を実現するコツ

第31回:自治体と一緒に政策を進めるコツ―予算のプロセス―では、自治体の予算がどのように策定されるか、特にそのスケジュールに着目して説明しました。今回の記事の中では、そのスケジュールを踏まえつつ、予算や条例の策定などに自治体の職員、議員、そして首長などのステークホルダーがどのように関わっているかをお示しします。

gyro/iStock

良い政策を実現するためには国が旗振りをするだけではだめで、全国の自治体がその政策を実際に実現しよう、とすることが必須です。良い政策を実現したい皆さんは、国へのアプローチだけでなく、自治体の首長、議員、職員に皆さんの政策を理解してもらうためのコツも理解しないといけません。

今回は、特にその活動が見えにくいであろう、自治体議員の活動を冒頭で取り上げます。大田区では2021年12月にオンラインでの小中学校の欠席届が解禁されました。その事例の背景を解説したあとで、議員が、自治体職員が、首長が政策立案にどのように関わるのかを詳しく説明します。

驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、小中学校を休むときには、連絡帳を近くに住む友人に預けて、学校に連絡するという運用が多くの自治体でなされています。特にこのコロナ禍で、このような仕組みが続けられていることには違和感がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本来なら病気を人にうつさないようにおとなしくしていなければいけないはずなのに、わざわざ他の子どもに病気を移してしまうような行動をとらなければいけないからです。

みなさんと同じように「これはおかしい」と疑問を感じた市民のひとりが、市民の意見を議員に伝えるプラットフォームであるissues(※)にこの疑問を投稿します。この市民の素朴な疑問を目にした大田区議会の伊佐治剛議員は、大田区でこの問題を解決しようと議会で問題提起します。

※issues
2019年3月にサービス提供を開始した「くらしの悩みをみんなで解決するWebサービス」。サービスを通じて市民が登録した要望が直接地元の議員の元に届き、政治家が市民の思いに共感した場合に、地元住民とやりとりしながら、要望を政策化します。市民の思いを政策に直結するサービスです。オンラインでの学校の欠席届の解禁については大田区だけでなく、他の自治体でもissuesのサービスを議員が利用したことをきっかけに実現されています。
https://the-issues.jp/

伊佐治議員は2020年10月、大田区議会で、小中学校の欠席届のオンライン化を提案します。

2020年9月 決算特別委員会 令和2年10月2日
伊佐治議員: 学校欠席時の連絡のオンライン化を求めていきます。これまで長年、小中学校の欠席の際の連絡は、基本的に連絡帳を友達であったり、また兄弟に渡して…先生にそれを渡すという流れが一般的でありました。…やはり近隣に娘の仲のいい友達がいないということで、休んだときに、誰に渡していいのだろうということがあったわけでありまして。これは私だけではなくて、そういう家庭環境にある方々は同じように思っているところではないかと思っております。
出典:大田区議会会議録検索システム

その後も、伊佐治議員は個別に教育関係者へのヒアリングや担当課長に検討状況を確認するなどアプローチを続け、2021年3月の予算特別委員会で改めてこの問題提起したところ、区役所の担当者から前向きな答弁を引き出します。
そして、2021年12月から大田区で小中学校の欠席届のオンライン化を解禁することに成功しました。

伊佐治議員:…この欠席届のオンライン化はいつできるのか、お答えください。
大田区担当課長:…オンラインによる欠席連絡システムの構築を委託業者に依頼しております。2学期までには、本格運用できるよう取り組んでまいります。
出典:大田区議会会議録検索システム

自治体の政策変更については報道も大きくされないので、自治体の政策に関わる政策関係者の仕事ぶりを知ることは難しい状況がありますが、このように自治体議員の質問がきっかけで政策が変わることもあります。今回の政策変更のきっかけはissuesの利用でしたが、皆さんの政策提案が適切なタイミングで議員や職員、首長に届けば、自治体の政策を変えることにつながるのです。

政策実現のポイント‐国の政策の大きな流れ‐

小中学校の欠席届のオンライン化が実現したポイントとしてまず挙げられるのは、国の政策が欠席届のオンライン化を後押しする方向性で動いていたことがあります。大田区で欠席届のオンライン化が提案された2020年10月がどのようなタイミングかというと、安倍総理が退陣し、菅総理が登板したばかりの頃です。

コロナ禍で日本のデジタル化が遅れていることが大きな課題として浮き彫りになりましたね。政府もその課題を認識していました。菅総理は2020年9月16日に総理に就任しましたが、就任直後の会議(※デジタル改革関係閣僚会議 (2020年9月23日))で、国や自治体のデジタル化の遅れを解決することを訴えています。また、同じ会議で河野行政改革担当大臣が書面、対面を求める規制や判子が必要な手続きを見直すことを表明します。

このような政府の流れを受けて、2020年10月20日、文部科学省は自治体の教育委員会などに通知を出します。
その通知の中で、

‐政府として、書面主義、押印原則等に関する規制や慣行の見直しを進めていること
‐学校と保護者間の連絡をデジタル化するよう取組を進めてほしいこと

を教育委員会や自治体の首長などに対して伝達、依頼をしたのです。

まさに欠席届のオンライン化に直結する話です。

伊佐治議員の議会での質問が2020年10月2日です。つまりこの事例は、国の政策変更をいち早くキャッチした自治体議員の提案を受け、自治体が検討を開始し、議員の質問や文部科学省の通知などを踏まえた総合的な判断として、欠席届のオンライン化を決定したものといえます。

このように自治体の政策と国の方向性は強く関係しています。政策提案をする場合には、国の政策の方向性をタイムリーに把握しつつ、自治体の政策関係者へのアプローチの仕方を考えることが必要になります。国が大きな方向性を打ち出したときに、その流れに乗った政策提案を行うことで、時宜をとらえた行動が可能になるということです。

これ以降は政策決定に議員や、首長がどのように関わるかを説明します。職員の役割や権限については、第31回の記事で一部説明しているので、その内容と照らし合わせつつお読みいただけると理解が深まります。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

 

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。