ロシアやウクライナの主要宗派、正教会は24日、イースター(復活祭)を迎えた。同日はロシア軍がウクライナに侵攻してまる2カ月が過ぎた日だ。戦時下の中で多くの正教徒たちがキリスト教の祝日を祝った。同時期、ロシア軍はウクライナ東部の攻撃を継続し、多くの民間人が犠牲となっている。期待された「イースター休戦」は実現されなかった。
ロシア正教会の最高指導者モスクワ総主教のキリル1世はモスクワの救世主キリスト大聖堂でイースターの祝福を信者たちに与えた。このイースター礼拝には正教徒のプーチン大統領も参加した。
礼拝後、プーチン氏とキリル1世は互いにプレゼントを交換した。ロシア軍のウクライナ侵攻以降、両者が公開の場で会ったのは初めてだった。プーチン氏はイースターの礼拝には参加してきたが、新型コロナウイルスの感染流行のため、参加を控えてきた。インテルファクス通信社によると、今年はロシアの首都だけで約60万人がイースター礼拝に参加したという。
プーチン氏はキリル1世宛てのイースター祝賀書簡の中で、「キリスト教の最大の祝日は、正教徒を含むすべての国民を結束させ、偉大で道徳的理想と価値観へのキリストの復活を祝います。キリストの復活は人々の最も明るい感情を呼び起こし、人生の勝利、善と正義への信念を目覚めさせます」と述べている、キリル1世に対しては、「社会における伝統的な精神的、道徳的、家族的価値観の促進への貢献」を称えている。
プーチン氏の指令のもと、ロシア軍がウクライナに侵攻、無数の民間人を虐殺するなど忌まわしい戦争が起きていなかったならば、プーチン氏のイースター祝賀書簡は喜ばしいメッセージと受け取れるが、ウクライナでロシア軍が戦闘を繰り広げている最中に聞くと、不思議な思いに襲われる。プーチン氏は本当にそのように考えているのか、いつものように演出しているか、ひょっとしたらプーチン氏は2つの異なった世界に生きているのだろうか、といった思いだ。
キリル1世は記念ミサでウクライナ戦争については直接何も言及しなかった。「全てのキリスト者がイースターから最初に学ぶべきことは、真理の究極の勝利に対する絶対的な確実性を有することだ。救い主はそのために苦しみ、再び復活したのだ。全てのキリスト者は日常生活が困難であったとしても、勝利したキリストのもとに立たなければならない」と説教している。ちなみに、キリル1世は今年3月、ロシアの侵略戦争を西側からの悪に対する善の「形而上学的闘争」と説明し、正当化している。
一方、ウクライナの正教会では夜間外出禁止令のため、復活祭の式典は24日朝の記念礼拝しか行われなかった。ゼレンスキー大統領はイースターのビデオメッセージの中で、「偉大な神よ、ウクライナ人の願いである平和な日々が訪れますように。そしてあなたと共に永遠の調和と繁栄が訪れますように」、「偉大で唯一の神よ、私たちのウクライナを救ってください!」と祈っている。ビデオは、キーウの最も重要な教会である聖ソフィア大聖堂で録画されたという。
ウクライナ正教会のキーウのエピファニウス府主教はツイッターで、「ロシア軍にとって神聖なものは何もない。彼らはイースターでも戦争を続けている」と非難した。23日にはウクライナ南部オデーサでロシア軍の攻撃により数人の民間人が殺害されたばかりだ。同府主教は、「ウクライナの勝利で、善と真実の勝利への確固たる信頼であなたの心が満たされますように」という祝賀を述べている。
世界正教会の精神的指導者、東方正教会のコンスタンディヌーポリ総主教、バルソロメオス1世は、「ウクライナに対するロシアの戦争を即時終結すべきだ。この『フラトリサイド戦争』(兄弟戦争)は人間の尊厳を損ない、慈善の戒めに違反する」と述べている。
ウクライナの1人の正教徒は、「警報のサイレンが鳴れば、私たちは礼拝を中断し、地下室のバンカーに入り、そこで礼拝を続けます。地下室には小さな即興の教会が設置され、祭壇とそれに付随する全てが備えられています。そこで私たちは静かに祈りを続けます」と説明し、「私たちは今、悲しみ、恐れ、絶望、悩みなどの感情が実際に何を意味するのかを理解しています」と語っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。