「10年後に消える職業予測」はその後どうなった?

2013年9月、オックスフォード大学のフレイ氏とオズボーン氏は「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」という論文を発表し、世界に大きな衝撃を与えた。具体的に、どんな職業が人間の手からコンピューターに奪い取られてしまうのか?を詳細に記したものである。たとえば、バーテンダーやデータ入力作業員、レジ係などが挙げられている。

あの衝撃から早9年間が過ぎ、世界は大きく変化した。少しタイミングが早いものの、答え合わせの時が来ている。結論的には、予測の多くは外れたと言っていい。変革の速度が遅い日本ではなおさらだ。

なぜ、予想は外れたのか?その原因と今後を論考したい。

wildpixel/iStock

先進的なテクノロジーはすぐには置き換わらない

先進的かつ合理的な低コストのテクノロジーは、登場するや否や、瞬く間に人間の雇用を奪い取るイメージを多くの人は持っているかもしれない。だが、現実にはオセロの石がひっくり返るようには単純にはいかない。

それを示す最たるものが、近年になってようやく浸透していったリモートワークがある。リモートワークやビデオ会議の技術はかなり以前から存在していた。筆者は米国に住んでいた今から10数年以上の前から、国際通話料金がもったいないと感じてSkypeというソフトを使って日本にいる家族や友人と連絡を取っていた。当時はGmailもあったし、YouTubeもあり無料で使用できた。この時代でも、一部の仕事ではすでにリモートワークをやっていた人もいるだろう。

だが、世界中でリモートワークやビデオ会議が今ほど当たり前になったのは、COVID-19の感染拡大以降でかなり最近の話である。ZOOM社の株価は2020年1月から10月までの僅かな期間で10倍近く伸長したが、これこそが2020年がリモートワーク黎明期だったことの状況証拠と言っていいだろう。

このことから言えるのはテクノロジーがあっても、実際に人々が使うようになり社会全体のインフラのように常識になるまでには、かなりの期間を要するということである。つまり、技術力だけでは予測は難しいということだ。特に我が国は歴史的に黒船の襲来など、外圧のタイミングでなければ変化が起きにくい。

技術が進んでも人の進化には時間がかかる

テクノロジーは不可逆かつスピーディーに進み続けている。だが問題はそれを使いこなす我々人間の方だ。

たとえばセルフレジ一つとっても、イマイチ導入が進んでいるとは言いづらい状況が続いている。ユニクロではセルフレジが極めて大きな進化を遂げており、かごに無造作に服を置くだけで正確にお会計をしてくれる。筆者が初めてこれを使った時は「知らない間に、セルフレジはここまで進化していたのか!?」と驚かされた。

だが、世の中にあるセルフレジの圧倒的多数は、このような先進的なレジではない。多くのセルフレジは、お客さんが操作になれず金額をうまく読み取れなかったり、窃盗防止のために最低限の店員さんを立たせておく必要がある。店舗によっては「マイバッグに入れてほしい」というお客さんの声に応えるために、一度導入したセルフレジをやめるところもある。

また、新技術がインフラのようになるには、市場参加者全員が使いこなせる必要がある。リモートワークが始まり、複数人でビデオ会議をするようになってからも、ITに疎い社員が一人でもいるとそのフォローを余儀なくされ結局非効率になるということも起きている。「大事な話はやはり出社して対面がいい」とテクノロジーの迎合を明確に否定する人も多い。これは技術的な問題というより、心理的な事情によるものだ。

ただし、次の10年後は分からない

これまであれこれと予測どおりには進化しないという話をした。しかし、次の10年後はいよいよわからないと思っている。

その理由は国際競争がますます激しくなり、変化の速度も上がり続けているからだ。これまで変化に対して鈍重だった日本も変わる、いや変わらざるを得ないと予想している。

その理由はリモートワークだ。我が国ではテクノロジーに疎い人がいれば、その人のビジネスや技術力に周囲が合わせるというシーンも多い傾向にあったと思う。だが、そんなことをしている余裕はもうない。グローバル規模にリモートワークが広がったことで、ネットさえつながっていればスキルを持つ誰でもどこでも仕事ができるようになった。日本の田園広がる田舎に住みながら、ニューヨークやロンドンに本社のある会社の仕事ができる時代である。

英語で仕事を検索すれば、到底全部を見きれないほどの仕事があることがわかる。筆者は最近は特に海外でのビジネスに力を入れているのだが、先日はNASDAQに上場する海外企業から仕事の依頼があって成果物を納品したばかりである。

▲GmailとTwitter経由でメッセージが来た。仕事の報酬は米ドル建て。

そして海外で仕事をする多くの場合、日本だけで通用するものではなく、グローバルスタンダードなビジネスツールや、技術を使う前提となることが少なくない。物理的な人の往来は遮断されていても、オンラインではこれまで以上に活発にヒト・モノ・カネ・ジョウホウが行き交っている時代だ。

特に今は円安であり、この傾向が続けば、日本のスキルを持つ優秀な人材ほど、日本にいながらでも積極的に海外の仕事をこなすことに合理性を持つようになる。そして仕事を通じてグローバルスタンダードなテクノロジーが浸透することで、結果として人々の行動変容が促進されるだろう。

未来のことは誰にも分からない。なくなると言われていた仕事が消えずに残ることがあるかもしれないし、消えないと思われていた仕事が消えるかもしれない。もちろん、筆者も未来予想などできない。できもしない未来予想を頑張るのではなく、我々ができることはどんな時代でも価値を提供できるようなビジネススキルの研鑽を積み、市場価値を高め続けることであろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。