「メガバンクが消える日」が100年は来ないと断言できる2つの理由

瀬本 光一

「銀行のビジネスモデルはもう終わりだよね」といった意見が当たり前のように言われるようになった昨今ですが、それは本当でしょうか?

筆者は新卒でメガバンクに入社し、営業店での融資担当業務、そしていま話題になっているシステム業務に関わった経験も持っていますが、世間的な銀行消滅論とまったく異なる考え方を持っています。

つまり、メガバンクは今後も残り続けると考えます。

本稿でその2つの根拠を述べていきます。

メガバンク3社の本社 Wikipediaより

「クラファンが銀行の代わりになる」と考える経営者はほぼ皆無

「今どき、お金を借りたければ銀行に頼らず、クラウドファンディング(以下、クラファン)を使えば良い」という人もいます。

確かにクラファンがなかった時代から考えると、新たな選択肢が生まれ、それによって銀行の出番がなくなってしまったと感じるかもしれません。

しかし、「資金調達」という結果は同じでも、その調達プロセスや難易度はまったく異なるのです。

そもそも、「クラウドファンディングがあるから銀行は要らなくなるはず」という見解を持つ人の中で、実際にクラファンでの資金調達に挑戦したことのある人というのはどれだけ存在するのでしょうか・・・?

実際に経験すれば分かることですが、クラファンでの資金調達には「銀行融資にはないハードル」が存在します。

というのも、クラファンの仕組みというのは「プレゼン」や「人気投票」に近いのです。

ゆえに「目立つための工夫」が必要となるし、「目立つのがニガテ」という事業者にとってはハードルが高くなってしまいます。

銀行に融資を申し込む場合であれば、「企画自体の良し悪し」、つまり「事業を実施した結果としてきちんと利益が出るかどうか」を説明できればよいわけです。

ところがクラファンの場合は「企画自体の良し悪し」以外に、「他のライバル事業者よりも企画を目立たせること」が必要となってきます。

そのため、面白おかしくアピールするのが上手くなかったり、ライバルの出した企画に埋もれてしまうと、どれだけ内容の良い企画であっても必要資金が集まらず、涙を飲む結果となりかねません。

実際、筆者の知り合いの事業者がクラファンに挑戦するのを身近で見る機会があり、「収益化の見込みがほとんどないし、非現実的でスカスカな企画なのに大丈夫なのかな…?」と感じてしまった経験があります。

ところがこの企画、銀行だったら100%融資しない事業内容だったにもかかわらず、「知り合いに美人がいるからPRを手伝ってもらおう」と言って“看板娘”を活用したりと、さまざまなマーケティング戦略(?)を駆使した結果、なんと当初の目標金額を簡単に達成してしまったのです。(ただし事業自体はやはり失敗し、支援者へ報酬を還元できなかったようですが…。)

以上の例のように「面白おかしくアピールするのが上手なタイプ」の事業者であれば上手く資金を集められるかもしれませんが、反対に「性格は地味だけど堅実に事業を営んでいくタイプ」の事業者にとっては不利となってしまいがちな傾向があります。

つまり、クラファンの利用者と銀行融資の利用者では「客層」が異なり、棲み分けされているといえます。ゆえに「世のすべての事業者が銀行を無視してクラファンに走る」という事はありえないと断言できます。

また、企業がお金を必要とするのは事業開始のタイミングだけではなく、緊急事態をしのぐための資金需要というものも存在します。

「この日までにお金を用意できないと会社が存続できなくなるかもしれない」というような状況の時、クラファンによる資金調達ではあまりにも時間がかかってしまいます。

銀行融資には、クラファンをはじめとした「直接金融(クラファンや株式発行のように、投資家から直接お金を集める形式)」ではカバーしきれない役割がある以上、今後も重要な資金調達源であり続けることは間違いありません。

“情報総合商社”に変貌するメガバンク

また、メガバンクにはネット系銀行など新興勢力にはない強みもあります。

それは一般的にイメージを持たれがちな「潤沢な資金力」ではなく、「圧倒的な情報力」にあるのです。

メガバンクをはじめとした大手金融機関は、「日本中の消費者の懐事情」や「消費動向」について大量のデータを収集・蓄積しています。

具体的には、融資業務や預金口座、クレジットカードの運営などを通じて「お金の入口・出口」の両方を把握しています。

これは、他の金融機関が持たない強みです。

「誰がどれくらいのお金を持っているのか」「何にお金を使っているのか」というデータは、各種の商品・サービスを扱う企業にとってみれば「売上アップに直結する貴重なデータ」であり、莫大な対価を差し出してでも手に入れたい情報なのです。

この“情報を売る”というビジネスモデルは構想段階ではなく、すでに目立たない形で取引されるようになってきています。

例えば、三井住友カード傘下でクレカ事業等を営むセディナは2018年、消費者購買データを扱う(株)True Dataと業務提携を開始しました。

この提携は、セディナ側が保有するクレカ関連の購買情報などを、True Dataがデータ解析し、マーケティングに活用することが目的であると見られます。

ビッグデータの活用をはじめとしたデジタル関連技術が発達するに伴い、メガバンクが独占的に保有する大量のデータは、ますますその価値を増しています。

メガバンクは資金力に優れた貸し手というだけでなく、まさに“情報総合商社”として、金融業の枠を超えたビジネスモデルに変貌しつつあるのです。

一方で、世間的には「メガバンクを駆逐する存在」として評価されている新興のネット系銀行は、メガバンクのように“お金の入り口から出口までの流れ”を俯瞰することができません。

メガバンク側に“情報のハブ”としての独占的な優位性がある限り、「メガバンクという組織」自体と「メガバンクの中枢に食い込んでいる人材」は今後も生き残るに違いありません(ただし、窓口業務・融資業務に従事してきた人員が削減されるという予測については筆者も同意します)。

瀬本 光一
経営コンサルタント、広告技術研究家。一橋大学ビジネススクールにてMBAを取得。三菱UFJ銀行に就職後、法人営業やサイバーセキュリティ部門を経て独立。企業を対象にマーケティング分野を中心とした経営コンサルティングを展開。