誰一人取り残さないデジタル・ガバメントへの一歩目

metamorworks/iStock

デジタル庁発足以来、デジタル・ガバメントの実現に向けて政府は少しずつ動き出している。デジタル庁は会議が多く意思決定が遅いなどの批判も出ているが、前向きな動きは評価に値する。

2021年末に『デジタル社会の実現に向けた重点計画』が閣議決定された。重点計画は目標として「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」を掲げた。その後、『デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン』が改定され、2022年4月20日に公表された。

標準ガイドラインには「誰一人取り残さない」に関する具体的な記述がある。「ユーザビリティ及びアクセシビリティに関する事項」で、もっとも重要なのは次の部分。

国民向けの情報システムの整備に当たり、デジタルデバイドが是正され、全ての国民がその恩恵を受けられるよう、ユニバーサルデザインの考え方等に配慮するものとする。

わが国では、2000年に『高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律』が施行され、一定規模以上の鉄道駅等についてエレベーター、エスカレーターの設置等が進められた。この法律は「交通バリアフリー法」と称され、アクセシビリティとはバリアフリー化との理解を社会に形成するきっかけになった。

鉄道駅が新設されるのは稀である。したがって、高齢者、障害者等の移動を円滑化するには、既存駅の改善から始めなければならない。このように、社会の側にある障壁を見つけ改善するというのがバリアフリー化である。

政府は2001年に『e-Japan戦略』を定め、同時に『e-Japan重点計画』を策定したが、そこにも「情報提供のバリアフリー化」「公共空間のバリアフリー化」「学校のバリアフリー化」が掲げられた。

「国がインターネットを通じて提供する情報が視覚障害者にも利用しやすいものとなるよう」「視聴覚障害者が健常者と同様に放送サービスを享受できるよう」というように、『e-Japan重点計画』は障壁を改良する方針だった。

わが国が2014年に批准した『障害者権利条約』や、条約批准に先立って制定された『障害者差別解消法』は考え方が異なる。事業者等の義務を定めた障害者差別解消法第八条を読んでみよう。

第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

原則として差別的取り扱いを禁止し、それでも社会的障壁が存在する際には除去について合理的な配慮をしなければならないという立て付けで第八条は構成されている。バリアフリー化は第2項に基づくアクションだが、その前に非差別原則に沿う必要がある。

情報通信分野では機器やサービス(以下、製品)は数年単位で世代交代していく。だから、製品を市場に投入する段階で、非差別の原則に基づいて製品を設計できる可能性がある。既存駅等の改良からという交通のバリアフリー化とは事情が異なる。

多様な人々の利用を最初から意識して設計する考え方が、「ユニバーサルデザイン」である。国際標準(ISO/IEC Guide 71/JIS Z 8071)では次のように定義されている。

調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、プログラム及びサービスの設計

標準ガイドラインは、最大限可能な範囲で全ての人が使用できるデジタル・ガバメントを実現するために、ユニバーサルデザインを打ち出した。設計段階からの対応を求めている点で一歩前進と評価できる。