コロナ禍で再確認された「ハブ空港」としての東京の優位性

最近、各国の入国規制が緩和されたことで海外旅行者が増えている。それに伴い、日本発着の北米・東南アジア路線で乗客の外国人乗り継ぎ客比率が高いという話題がtwitterでも多く見られるようになった。

もともと日本は立地的に北米とアジア諸国(東アジアからインドまで)を結ぶ経路上にあり、乗り継ぎ地点としての重要性は高かった。それが日本人乗客が増えたことと、アメリカとアジア各地を結ぶ直行便が増えたことから、東京での乗り継ぎ客が目立たなくなっていた。

本稿では「乗り継ぎ拠点」という意味で「ハブ空港」という言葉を用いる。コロナ禍に伴う航空路線の減便により、アジア各地と北米を結ぶ直行便の運休路線が増えた。香港と北米間の直行便がなくなったことで東南アジア・インドからの北米客が香港空港を使えなくなり、東京のハブ空港としての需要が高くなった。また日本人の乗客が少なくなったことで、日本とアメリカを結ぶ路線の9割方が乗り継ぎ客という便も珍しくなかった。

私は去年5月にアメリカに行ったが(その時の話はここに掲載された)、ダラス行きのJAL機内は、ほとんどアジア系の外国人だった。客室乗務員に聞いた所、ビジネスクラスにはそこそこ日本人もいるけど、エコノミーはほぼ乗り継ぎ客ですと言われた。私はエコノミー席だったが、ほぼ満席で日本人らしき客は見当たらなかった。

現在世界の航空会社は3大航空連合(ワンワールド(OW)、スターアライアンス(SA)、スカイチーム(ST))に集約されている。

日米の航空会社はOWにJALとアメリカン航空が、SAにANAとユナイテッド航空が、STにデルタ航空が加盟している。日本側にST加盟社はないが、韓国の大韓航空が加盟している。そしてOW、STともに東京(成田、羽田)をハブ空港として活用し、STはデルタ航空が成田をハブ空港としていた。

デルタ航空便でアメリカから成田に着くと、乗客の半分以上が入国するのではなく乗り継ぎ通路へと向かっていた。同じSTの大韓航空がハブ空港にしているソウル仁川ではなく、成田を自社のハブ空港として使っていたのだ。デルタ航空はアジア唯一の整備拠点を成田に置いていたこともあり、北米便の羽田枠拡大に強硬に反対していた。

結局、羽田枠が拡大されたことで成田から撤退し整備拠点を手放し、東京路線は羽田に集約し日本目的客に集中させ、ソウル仁川を大韓航空と提携してアジアのハブ空港とする方針になった。

一時期羽田国際化をする理由として、「アジアのハブ空港の地位をソウルに奪われたから、羽田国際化でそれを取り返す」という話が広く語られるようになったが、実際には成田の方がソウル仁川より遥かにハブ機能を持っていたのだ。

羽田国際化は国際線と国内線の乗り継ぎにも便利だと言われたが、実際のダイヤは北米線と日本国内線の乗り継ぎは考慮されていないものであった。そのことに関しては以前アゴラに投稿した以下の記事を参照して頂きたい。

米東海岸路線が開設されても羽田のハブ機能は向上しない
JALは羽田のハブ空港化に協力しないのか?

そして羽田発着の北米路線も、北米とアジア諸国との乗り継ぎを考慮されたダイヤになった。

羽田空港の国際線は早朝深夜枠から開放されてきた。成田空港の飛行時間制限が厳しかったこともあり、特に早朝深夜枠を利用した東南アジア路線が多く開設された。具体的には羽田を深夜に出発して現地朝着、現地夜発で羽田早朝着という時間帯だ。

そしてこの時間帯の便は、羽田午前発北米行きへ、また羽田夜着北米便からの乗り継ぎに使える。「東京」として捉えた場合、もともと夕方の時間帯に北米・アジア路線を集中させていた成田に加えて、羽田では深夜早朝の乗り継ぎができるという、2つの時間帯で「ハブ空港」として機能することになったのだ。

時間帯を複数にできることで、日本・東南アジア区間を昼便にするか深夜便にするか選択できるようになり、乗り継ぎ客の利便性が上がった。これは乗り継ぎを考慮したダイヤが明確に組まれていないソウル仁川空港と比べて、利便性の点から格段の差があるのだ。羽田での乗り継ぎは成田乗り継ぎに比べて接続時間が長くなるのだが、それはそれで空港内のレストランで日本食を楽しむことができるので、別の楽しみを提供できる。

2022年5月2日成田空港第2ターミナル(OW加盟社中心)の到着便。筆者撮影。15-17時に北米・アジア路線が集中している。

私が去年(2021年)5月にアメリカに行った時に利用したのは羽田発のJAL便であった。ほぼ満席で乗客のほとんどが乗り継ぎ客だったのは前述した通りである。帰りはニューヨーク発ソウル仁川行きのアシアナ航空(SA加盟)を利用し、ソウルで福岡行きのLCCに乗り継いで帰国した。私は長崎在住で、当時は入国後の公共交通機関利用が認められなかったので、福岡から入国して車で帰るという経路が最も合理的だったからだ。

この時に東京とソウルのハブ空港としての利用度に格段の差があることを実感した。日本・韓国ともにコロナ禍でも国際線同士の乗り継ぎ客はほぼ無条件で認めていた。中国台湾香港が乗り継ぎ客にも厳しい制限をつけていたのとは対照的で、結果的に東京とソウルのハブ空港としての利用度が比較されることになった。そして羽田ダラス便はほぼ満席で利用者は乗り継ぎ客ばかりだったのに比べ、ニューヨークソウル便は乗客半分以下、乗り継ぎ客ほぼゼロ、という状況だった。ソウル到着後乗り継ぎ用手荷物検査場を通ったのは、私1人ではないだろうか。

ソウル仁川空港にはトランジットホテル(入国せずに宿泊できるホテル。羽田空港第3ターミナルにもある。)があり、私も利用した。乗り継ぎ時間が長い場合には便利なのだが、そういう利点があっても、ソウルでの乗り継ぎ客はほとんどいなかったのだ。

2021年5月21日筆者撮影。ソウル仁川空港第1、2ターミナル発全便

この日の日本路線は成田と福岡だけで、午前10時頃という同じ時間帯にはなっているが、通常ダイヤの日本路線がこの時間帯に集中していることはない。長距離路線が早朝着にまとめられていることもなく(たとえば香港空港の北米・欧州路線は深夜発・早朝着にまとめられている)、日本各地からソウル経由で北米欧州に行くのが便利ということは、決してない。

私もこの日、ニューヨークから夕方に到着してトランジットホテルホテルに一泊することになった。また10時台に長距離路線がまとまっているが、この便に間に合わせるように日本の地方発便を集めるのは、日本が早朝発になるので不可能である。ソウルで日本各地からの乗り継ぎ利用を考慮したダイヤが組まれていないのだ。

ちなみにソウル仁川行きが2便あるが、これは韓国人向けの周遊旅行である。この便の利用者は免税店の利用もでき、閑散としていた免税店がこの便出発前だけは賑わっていた。

東京乗り継ぎを経験したことがない東南アジア在住者で、今回のコロナ禍によって初めて東京乗り継ぎで北米旅行をすることになった人もいるだろう。そうした人々に東南アジアからの北米直行便が復活・増便されてからも、日本乗り継ぎ(東京、大阪等)を選択肢に入れてもらえるよう、日本の航空関連業界の人には努力して欲しい。

現状だと「北米の航空会社を利用したら機内でのマスクは不要だけど、日本の会社ならマスク強要で寝ていても起こされてマスク着用を促されるから使いたくないなぁ。」などと思われると、後々まで尾を引くと私は考えてしまう。