1. 圧倒的に国民が株式投資をするアメリカ
前回は、家計の金融資産のうち「現金・預金」について比較してみました。
日本の水準は主要国の中で圧倒的に高く、それは1990年代から続く傾向のようです。現在の貯蓄が高齢層に偏っている現実から考えるならば、現在の高齢層が現役世代の時に稼いだ貯蓄の水準が高いという事が言えそうです。
一方で、現役世代の貯蓄はあまり増えていません。
今回は、金融資産のうちもう一つ大きな要素である「株式等」(Equity and investment fund shares/units)について見ていきましょう。
図1が家計の金融資産のうち株式等の推移です。
アメリカが圧倒的で、その他の国との格差があまりにも大きいですね。アメリカは日本の約20倍もの水準です。
アメリカの家計は株式等の資産運用が活発であることがよくわかりますね。
2. 株式投資に積極的でない日本の家計
それでは、人口あたりの水準でも比較してみましょう。
図2が人口1人あたりの、家計の株式等の推移です。
やはり1人あたりで見てもアメリカの圧倒的な水準が際立ちますね。カナダも非常に高い水準で推移しています。
日本は1990年代はそのカナダよりも高い水準でしたが、横ばい傾向が続き、直近ではドイツやイギリスよりも下回っています。
イタリアはリーマンショック前までは高い成長率でしたが、その後は低迷して停滞気味ですね。
3. 具体的な数値で比較!
特徴的な年における具体的な数値で比較してみましょう。
図3は日本経済の絶頂期だった1997年のグラフです。
日本は7,606$で26か国中15位です。平均値を下回る水準ですね。バブルが崩壊し、株価が一気に下がった時期でもあります。
家計 金融資産 株式等 1人あたり
1997年 単位:$ 26か国中
1位 45,285 アメリカ
6位 14,562 カナダ
8位 13,834 フランス
9位 13,783 イタリア
10位 13,420 イギリス
13位 8,875 ドイツ
15位 7,606 日本
OECD平均 10,178
図4が2019年のグラフです。
日本は16,179$で、36か国中21位です。1997年の段階よりも2倍近くに増えてはいますが、他国の成長の方が大きく他国に引き離されていますね。
家計 金融資産 株式等 1人あたり
2019年 単位:$ 36か国中
1位 137,390 アメリカ
6位 68,097 カナダ
12位 31,183 イタリア
13位 27,325 フランス
17位 20,855 イギリス
18位 20,170 ドイツ
21位 16,179 日本
25位 12,063 韓国
OECD平均 31,200
4. 成長率でも比較してみよう!
次に、自国通貨ベースでの成長率でも比較してみましょう。
図5が1995年を基準(1.0)とした場合の成長率を表すグラフです。
日本は2011年ころまでほぼ横ばいでしたが、それ以降はやや増加傾向となり、直近で1.8倍程度です。
低成長のドイツや、イギリス、フランスでは2.5~3.5倍程度ですね。
アメリカはリーマンショック以降極端に成長率が高くなり5.5倍もの水準です。カナダはそれ以上に高い成長率で、10倍近くですね。イタリアは大きく変調しています。
5. 日本の家計の株式投資
今回は家計の金融資産のうち、株式投資についてフォーカスしてみました。
日本は現金・預金は他国よりも圧倒的に多いですが、株式等については主要国で低い水準です。
図6は日本の上場企業の株式の変化です。
バブル崩壊後、アップダウンはありますが停滞傾向が続いているのが特徴ですね。国内主体の持ち分も横ばい傾向が続いています。一方で、外国(黄色)の持ち分は一方的に増加しています。
日本企業の場合、株式の保有は国内主体よりも外国の方が増えている状況だという事がわかりますね。
図7が世帯主の年齢階級別に見た、家計収入の内訳です。
世帯主を主とした賃金収入が多くを占め、「利子・配当金」による収入は全世帯平均で年間2.8万円程度です。高齢層ほど多く、50歳未満では年代が下がるにつれて減っていきます。
平均でみても、全体の収入に占める利子・配当金の収入は非常に少ない水準ではないでしょうか。
ちなみに、有価証券の売却は、月平均で500円程度(家計調査より)のようです。
日本の家計は、金融資産を多く持っていますが、主に「現金・預金」として保有していて、「株式等」による資産形成にはあまり積極的でない様子が見て取れますね。
もちろん、日本の場合はバブル・バブル崩壊の経験から、必要以上に慎重になっている面もあるのかもしれません。
高齢層に偏った金融資産をいかにして消費や投資に向かわせるかというのが、フロー面での停滞が続く日本経済の大きな課題の一つだとは思います。
ただし、それ以上に重要なのは、すでに高齢層が積み上げた金融資産を頼りにするのではなく、労働世代が十分に稼げ、将来への不安を減らしていける事ではないかと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。