マスク氏の予測「人口減で日本消滅」は当たる?

「死者>出産」という多死少産の長期トレンドが変わらない限り、待ち受けるのは日本の消滅。

イーロン・マスク氏のツイートが大きな反響を呼んでいる。

我々にとって、絶望的に感じられる同氏のツイートに批判が寄せられなかった理由は「This would be a great loss for the world.(日本の消滅は世界にとって大きな損失になるだろう)」という日本擁護のニュアンスが含まれていたからだろう。

これまでは、同じ日本人同士で「このまま人口減少が継続すれば国家存亡の危機に瀕する」という議論は出ていた。だが、それをアメリカという海外の世界トップクラスのビジネスマンに言われたことで、大きな衝撃と諦めにも似た絶望の反応がSNSで散見される結果となった。

Laurent Watanabe/iStock

同士の言う通り、本当に日本は消滅するのだろうか?結論から言えば筆者は直ちに絶望する必要はないと思っている。以下に根拠を述べていく。

人口減は日本だけではない

まず、マスク氏が「人口減少による日本の危機」について取り上げたことで、「我が国の国家存亡の危機だ!」と感じた人も多いと思う。だが、冷静に「日本だけではない」という点に留意する必要がある。

たとえば、お隣韓国は日本より状況が芳しいとは言えない。イギリス・オックスフォード人口問題研究所(2006年)を含む、研究機関は「人口減少が理由で22世紀に最初に消滅する国家は韓国」と指摘した。その後、出生率は1.0を大きく下回るという状況が数年間続いている(2021年で0.81人)。新型コロナの感染危機でこの状況は更に悪化し、「2100年には存続の危機」とするレポートもある。

また、国連幸福度ランキングが世界トップクラスで、高福祉国家のフィンランドは合計特殊出生率1.35人(2019年)と、日本の1.36人を下回る数値だ。人口増加が強みのアメリカですら、人口増加は鈍化が見られている。さらにアフリカは当面、人口増加が続く見込みはあるものの、それでも2100年以降は減少に転じるという予測も出ており、長らく続いたグローバル規模での「人口増加トレンド」は転換すると見込まれている。

同士が日本を引き合いに出したのは、「フラットな目線による、人口減少問題への意見」というより、日本びいきによる部分も大きいのではないだろうか。人口減少に依る国家存亡の危機を取り上げるなら、日本よりさらに状況が難しい国家は他にもあるからだ。

マスク氏は日本アニメ/ゲーム好きを公言しており、「ファッション的なにわかオタクではなく、お気に入りアニメ作品のチョイスも実に絶妙。よく理解している」と日本人に言わしめるほどである。過去には日本のアニメ絵師をTwitterアイコンに使用するなど、日本びいきの状況証拠は複数存在する。

もちろん「日本以上に状況がよくない国があるから、日本はまだマシ」というつもりはない。それは一時的に心を慰めるだけで、何の根本解決にもならないからだ。しかし、日本を名指ししたことで「日本だけが大きな問題を抱えている」と悲観的な解釈をするべきではない。

人口減少社会への適応

人口減少は非常に難しい問題である。

筆者は1980年代の生まれなのだが、自分が生まれた時点で「人口減少が待ち受けているので、手を打たねば」という問題認識はすでになされていた。だが、時が流れても国は何の解決策も打ち出せず、想定通りに問題は顕在化してしまったのが現状である。

人口減少対策の難しい点は、緩慢にしか進まないということだ。つまり、直ちに大きな問題にはならないが、直ちに治療する手段もない。今頑張って子どもを増やしたとしても、効果が出るのは20年くらいかかり、さらにその間も子どもを増やし続けなければ本質的な解決にはならない。

そして対応策が難しい以上、人口減少に耐える生活モデルを考慮する必要がある。つまり、我が国はこれから大きな変革を迎える。肉体労働や単純作業をAIやロボット化する議論はすでに出ており、荒廃した都市を農業に転用することで食料自給率を高めるという方法もあり得る。国家防衛は人海戦術以上に、兵器のテクノロジーを高める点により主眼がおかれるだろう。

日本の人口は長く、1億人を超える大きな国家を維持してきた。だが、昔はそこまで人口はなくとも回っていたし、今の日本は省人力化に向けた技術も有している。生産性を高めることで、適応する力が問われることになるのではないだろうか。

総人口・総GDPより、一人あたりの豊かさこそが最重要

ここからは意見のわかれるところであり、あくまで筆者の個人的な感想にすぎないが私見を述べたいと思う。

さて、上述した通りたとえ人口減少への適応ができたとしても、少なくともしばらくの間は人口は減り続けることはほぼ確定的だ。そうなれば、総人口が減ることで総GDPも減少は免れない。革新的なビジネスや技術で我が国に強力に世界の富を集めることができれば話は別だが、起きるかどうか分からないものをあてにするより、確実に来る人口減少を想定して「トータルのGDPはこれから減る」を考える方が現実的だろう。

さて、ここで「はたしてそれは問題か?」を考える必要がある。個人的にはそれが問題の本質ではない気がしている。というのも、総人口が少なくとも豊かさを享受している国家はたくさんあるからである。

世界銀行のデータに依ると、スイスの人口は863.7万 (2020年)である。これは2021年時点の大阪府より少ない。だが、IMFの2021年データではスイスの一人あたりのGDPは93,720USDで、世界第3位。我が国にも、スイスの高級ファッション、食品、高級時計などの商品にあふれている。

スイスに限らず、欧州の小国には一人あたりのGDPが非常に豊かな国はいくつもある。逆に言えば、総GDPが大きくても一人当たりのGDPが小さければ、豊かさを実感できないのではないだろうか。

問題は今の日本は人口が少なくとも、金融やITなど省人力で大きな付加価値を生み出す分野が多くはないということである。

ゲームやアニメ、マンガといったサブカルはグローバルで健闘しているものの、マネーの動くダイナミクスさは金融やITには及ばない。つまり、大きなビジネスモデルの転換が起きなければ、1億人超の人口規模を活用した、人海戦術的なGDP創出頼みとなり、人口減少確定的な今、これからジリ貧になるということである。これからは付加価値の非常に大きな産業を生み出し続ける土壌ができるかどうかだろう。

未来のことは誰にも分からない。人口減少は永遠に続く地獄の一本道に思えてしまうが、良くも悪くも今から進む道は人類史上、未踏の地なのである。つまり、前例がないだけでどこかで下げ止まって反発して盛り返す可能性もある。

また現状の日本には、大きな付加価値を生み出す産業に乏しいといっても、日本人の基底能力や知恵は世界屈指の高さであり、必ず逆転するタイミングが訪れると信じている。いや、今を生きる我々はそうする必要がある。

「ピンチはチャンス」という言葉通り、我々は今試されている時が来ているのだ。後に「マスク氏の懸念したタイミングが新たなトレンドの起点だった」と言えるような未来を迎えられるように。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。