プーチン時代の終焉

注目されたロシアの対独戦勝記念日でのプーチン氏の演説はプーチン支持派をがっかりさせ、衰えを感じさせる内容でした。個別会合では強気発言がいまだに目立ちますが、内面では相当追い込まれている様相が伺えます。

無名戦士の墓に花輪を捧げるプーチン大統領 クレムリン公式HPより

発言には新味がある内容は出ず、宣戦布告も出ず、刺激的でロシア兵に活力を与える材料も出ませんでした。戦争は死力を尽くした戦いであり、武器よりも戦闘する意思が重要になります。ウクライナは国を守るという非常に明白な意思と目的がありますが、ロシア側は「なんとくウクライナ」状態であり、ウクライナのどこをどう抑えるのか、その作戦がクリアではなく、その為に広い国土のあちらこちらを攻めたりして一時、戦力が分散する形となりました。

そもそもはウクライナはすぐに降伏するだろうという前提があったわけですが、西側諸国家からの武器などの支援もあり、善戦しています。

今後の展開としては東部ウクライナに戦火は集中すると思いますが、泥沼化した場合、どこかでロシアが総崩れになる可能性はあります。

思い起こせば第二次世界大戦の時、ドイツがモスクワの間近まで迫ってきたもののソ連軍に押し返されました。当時のソ連はスターリン時代ですが、スターリンはその残虐性に問題があり、国内でも彼に反発する者を虐殺し続けたため、ソ連側の軍の指揮者不足が取りざたされていました。よってソ連が2700万人もの戦争犠牲者を出したのはある意味、スターリンが引き起こした自業自得もあったでしょう。

一方、ドイツ側は北軍と南軍がレニングラードとキエフをそれぞれ侵攻してモスクワ近郊に到達しており、兵力が疲弊していました。これで弱いソ連でもドイツを押し返す最後の力を振り絞ることができたのです。

では日露戦争、203高地の戦いはどうでしょうか?圧倒的有利なロシアに対して乃木将軍率いる日本兵は無数の戦死者を生み出し、各方面からの批判があり、将軍自身が自信を失いかけていた中、最後の力を振り絞って攻めたのが歴史に残る203高地の戦いでした。これはソ連がモスクワを責め立てられる時と似たケースだと思いませんか?

ソ連がアフガンを攻めた時も好例です。当初は上手くいったのですが、アフガンのソ連への抵抗勢力が粘り強く、そして、抵抗勢力への米中などの武器や資金支援が勢力を強く温存させることになります。結局、10年戦い、ソ連は撤退、その後、ソ連崩壊の一因となっています。

これら近年の「逆転劇」と「粘りの戦い」のケースを見ると、今回も戦力からすれば圧倒的差があり、ウクライナ側は国土を焦土化し、相当の犠牲者を出していますが、更に粘るならば勝機は当然出てきます。また西側諸国がウクライナへの秘密裏の後方支援を行うことで戦況は大きく変わるでしょう。少なくともいえることはこの戦争は長引きそうだ、という点です。

ロシアは今のところは武力はともかく、国力は一応、維持できています。デフォルトもしていません。しかし、ロシアを影なりに支援している国々がどこかでプラグを抜く可能性を見ています。その中で、習近平氏がドイツのショルツ首相とオンライン会談をした際に習氏が「衝突が激化・拡大して収拾がつかなくなる事態を全力で回避しなければならない」(時事通信)と述べたとあります。なぜ、習氏はそういったのか、と言えば仮にロシアが経済的に行き詰った際に中国は支えられないからであります。

戦局が浅い時期で西側諸国がロシアとの経済的関係を断絶を次々発表した1か月ちょっと前はおこぼれが中国に入り込むため、中国としてはむしろ「棚からぼたもち」状態でした。ところが、ここまで長引き、かつ、プーチン氏一人の戦いでロシアの本音が見えない戦いになるといざという時、ロシアが中国の上に覆いかぶさる形となることも想定できます。まるで、世界地図でロシアが中国を包み込むような、そんなイメージです。これは習近平氏にとっては困るのです。

私はこの戦争、ロシアの負け、そしてプーチン氏は国内で追い込まれ、健康を害し、政界から消えるとみています。その後を任される人物がロシアとしての体裁を保てるかどうかは親ロシアとされるロシアを取り囲む国々の姿勢次第だとみています。確実に言えることはロシアの周りの国々は民族的にも宗教的にもあまりにも複雑で一枚岩にはなりにくい点です。

ソ連共産党がなぜ、多くの地域や国家を巻き込むことができたか、その一つは共産主義が宗教を禁じたことはあるでしょう。が、宗教は否が応でも人の心に入り込みます。とすれば今、かつてのようなロシア帝国を再構築するのは至難の業だと考える方が正しいのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。