日本維新の会の夏の参院選公約案が一部のマスメディアに流れている。そのなかで、「首都・副首都法を制定し、大阪・関西を首都機能のバックアップを担う拠点とすることにより、二極型国家を実現する」としている。
結構なことだが、私としては、より広汎な国民の支持を得るためには、さらなる肉付けが必要だと思う。
そこで、1980~90年代の首都機能移転論を牽引した一人として、これから地方分散や首都機能移転をどうするべきか、今年、刊行した「世界史が面白くなる首都誕生の謎」(光文社知恵の森文庫)でも書き、また、いろんな方に話しているのだが、その内容を紹介したい。
「首都機能移転に関する法律」(1992年)に、超党派の議員立法として成立し、いまでもそのままなのだが、東京サイドの巻き返しで頓挫していることは、第50項目で紹介した通りである。
バブル崩壊によって、東京一極集中がいっときスローダウンしたのがブレーキになったのだが、その後も一極集中への流れはコロナ禍によるリモーワークで勢いが鈍化したりという波は常にあるが、継続したままだ。
最近も、衆議院定数の10増10減が決まったが、東京が5増、他の関東各県で5増、西日本で7減、東北・新潟で3減であるが、歴代首相のほとんどが西日本出身なのに、世襲政治家で東京生まれが多いので危機感を持たなかったのだろうか。
東京一極集中を解消するためには、道州制を含めた地方分権とか、首都機能の部分移転のほうが現実的という人もいるが、それでは、首都にいる人や企業だけが有利になる構造的問題を解消できず、やはり本命は国会・政府の移転なのである。
具体的にどうすればいいか、できるだけ、多くの人に支持していただける提案すれば以下のようなことかと思う。
1. とりあえず東京首都のままでの関西・中部副首都圏の提案
維新が主張している大阪副都という考え方は、大阪にこだわらずに、京都、神戸、名古屋なども含めた他地域との連携を図らないと賛同は広がらないのではないか。
私は大阪は西日本センターとしての機能の受け皿がもっとも相応しいと思う。つまり、東京一極集中は災害やテロ、システム障害などで東京が機能しなくなったときに西日本までダウンさせないことと、一時的に日本の中心機能を引き受けるように準備するべきなのだ。
現実にNHKなどは大阪で全国への放送をとりあえずは出来るように整備しつつあるし、東海道新幹線の管制も同様だ。民間企業でもそういう体制をとっているところも多いが、これは拡大しておいたほうがいい。怖いのは地震だけでないのだ。
一方、首都機能中枢を東京においたままでの首都機能分散なら、京都も活用することが現実的で支持も得やすい。かつて、鈴木俊一東京都知事も最高裁の京都移転を提唱していたが、公務員でも京都への移転は大阪より遥かに受け入れやすいし、全国の人も京都の役所を訪れたり、会議に参加することを歓迎する。
転勤なら単身赴任というのが最近は多いが、京都なら家族も一緒とか、老後でも京都に終の住まいを置いたら東京からでも家族がよく来てくれるという人は多い。それに、緊急事態のときに大阪のホテルのホテルは民間が使うから、臨時の国会議事堂や各省庁として使うのは観光客をストップすればいいだけの京都のほうが好都合なのである。
一方、神戸は相変わらず外国人にとっても住みやすい町という定評もある。サッカーや野球などの欧米系選手にも神戸ライフは大人気で帰国したくないと言う選手も多いと聞く。それならば、神戸も国際交流拠点として横浜や幕張に相対する役割を担うべきだ。
関西二府四県のうち、このように、大阪・兵庫・和歌山グループと、京都・滋賀・奈良グループが役割分担すればよい。
また、関西が中枢機能を持つことは、日本海側の発展に寄与する。なんとなれば、日本海側から東京へ向かうのは、幹から分かれた枝を張り巡らせるような交通網になり、日本海軸は寸断されざるを得ない。に対して、関西は日本海に沿った国土軸の延長であり、日本海沿岸が東海道沿岸と同じ陽の当たる道になるからである。
さらに、名古屋や東海各県はは、リニア新幹線開通によって、東京とも大阪とも一時間以内で結ばれることになる。名古屋を東京と関西の両方の緊急のバックアップ基地として位置づければいいのである。
リニア新幹線の各駅を東京の郊外と位置づけて中枢機能の分散の受け皿とし、一方で、関西副都の一部でもあるという位置づけにすれば、日本はより強靱な国土と経済社会になると思う。
2. 首都移転を前提とする場合
① 国会・政府の中枢部分は、日本の人口重心にも近い、中央リニア新幹線沿線の畿央高原(三重県伊賀地区を中心とする地域)の新行政首都を置く。ただし、西ドイツの旧首都ボンにおけるケルンやフランクフルトのように、京阪神や名古屋都市圏の機能を活用して中規模の都市にとどめ、都心部は賃貸住宅のみにとするなど永住者を抑制する。
② 東濃地区など他の駅の周辺などには、クラスターを置き、中央省庁分散の受け皿とする。やはり首都機能移転候補地だった那須地区は最高裁判所や独立委員会など準司法機関を集中させるなど第二行政首都として位置づける。
③ 中央省庁の組織を抜本的に見直し、人数で半数程度は道州に移行させる。また、現在の都道府県と市町村は300~400の基礎自治体に再編にして財政基盤を保証し、生活基盤の整備はこれにまかせる。
④ 皇室は新行政首都にも小規模な御所を設けるが、セキュリティ確保の観点からも、東京や京都、那須御用邸などの既存施設も活かしてイギリスのような分散居住をめざする。ただし、現皇居を公式の宮殿として引き続き位置づけ、一方、京都御所を即位礼を含む伝統的儀典の場として再構築する。
⑤ 首都機能の移転と地方制度の刷新は、20年程度の期間をかけて段階的に行うことで混乱を回避する。
一方、首都機能中枢は東京に留めるが、個別機能を分散する提案もあり、竹下内閣では一省庁一機関の移転が決まった。だが、どの機関を移転対象とするか、どこへ移転するかを、各省庁にまかせ、東京23区外ならどこでもいいということにしたので、川崎、さいたま、幕張などへの移転でお茶を肥濁すことで終わった。同時期にフランスで重要な機関の全国各地への大規模な地方移転が実現したのと好対照だった。
安倍内閣になって再びこの問題が取り上げられ、とりあえず、京都への文化庁の移転が決まり、今後に少し希望が持てるようになったが、キャリア国家公務員のうち半分くらいを東京から出すくらいの目標があってしかるべきであろう。
道州制については、公務員の地方分散策という意味はあるが、むしろ、財政力のある東京が属する道州への人口集中が進み、制度も東京の制度を全国が押しつけられるようになる危険性がある。そもそも、首都が最大都市である国では分権が分散につながるのは希である。道州制は首都機能移転と一緒でこそ効果を発揮する。