人口減少で何が悪い?:イーロン・マスクが言う日本消滅はない!

イーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を超えるような変化がない限り、日本はやがて消滅する」との発言が話題を呼んでいる。

そんなわけない、何をいっているのだという感想を持ったのと、これに同調する日本国内の識者や多くの人が「人口を増やせ」という状況に対して、明確に異議をとなえたいと思う。

筆者は地方自治体コンサルティングの仕事においては、総合計画策定や地方創生総合戦略策定など場面で、人口減少問題に直面してきて、内閣府での地方創生でも経験をしてきて、その難しさに苦労した。

そして個人的には、地球の1生物、1生命として、人間が王様として振る舞い、資源を独占的に使用している自覚を皆さんにも感じて欲しいと思ってきた。これだけ自然との共生どころか自然を支配・収奪している「近代文明」は、他の動物・植物を虐げてきたうえで成り立っているわけで、人間がこれ以上増えていいのだろうかと思っている。

Pyrosky/istock

人口減少の根本的な理由

日本の人口減少は、統計上最も出産の機会が多い25歳~39歳の女性の人口が激減していることと死亡数の急激な増加が原因である。

個人レベルでの理由を考察すると

  • 未婚化・晩婚化
  • そもそも異性と出会いがない
  • 大変な子育てよりも、自分に時間を使いたい
  • 暮らすのに精いっぱいで経済的余裕がない
  • 子育てには莫大な育児・教育コストがかかる
  • 日本社会、会社が子育てに優しくない
  • そもそも日本のような先のない社会で子供を育てたくない

といったことが要因として挙げられる。社会的要因、行動要因、経済的要因といったところだ。こうした要因が複合的に絡み合うものだが、こうした要因を整理し、図解すると以下のようになる。

筆者作成

イーロン・マスクの何が間違っているのか

そもそも土地が少なく、この人口密度の高い国の適正人口は5000~6000万と言われている。この狭い国に、1億2000万は多すぎるのだ。そもそも戦後7000万人から5000万人も増加したわけで、それは高度経済成長という特殊な要因だったわけで、戦前に戻ればいいという考え方もあるだろう。

さて、イーロン・マスクさんの何が間違っているのかを示していこう。第一に、日本の歴史を知らなすぎるのだ。

出典:日本の人口

これまでの人口の推移を見てみると、明治以降急激に増加したことがわかる。西洋のもたらした産業革命を中心とする「近代文明」は偉大だと思わざるを得ない。生活は圧倒的に良くなって、暮らしは豊かになった。

話を戻して、歴史学者に言わせると、縄文後半、享保の改革後と既に2回も人口が減少した時期がある(平安後期もそうだったといわれている)。まずは、縄文後半。図表には明らかになっていないが、26万人の人口が、8万人にまで落ちたと言われている。寒冷化の影響で食料減少が原因だ。70%も減少した。

次に、享保の改革後の江戸時代。新田開発を進めた江戸時代だが、ある一定の開発が進むと、自給自足型経済ゆえに、経済システムの規模は頭打ちになり、人口も限界に突き当たった。そうした中、寒冷期がゆえに冷夏、日照不足、洪水などのため大きな飢饉もおきたことも影響している。

出典:参議院第三特別調査室 縄田康光「歴史的に見た日本の人口と家族」より

特に、江戸三大飢饉といわれた享保の大飢饉(1732年)、天明の大飢饉(1782年~1787年)、天保の大飢饉(1833年~1839年)の影響は上記図にも明らかである。間引きや生活水準を維持するための産児制限が行われていたと推測されている。

第二に、人口が減っても、国が滅亡することはない。イーロン・マスクさんは第二次大戦でどれだけの人が亡くなったのかを知っているのだろうか。

出典:wikipediaより

ポーランドは数年のうちに、人口の18%、ソ連は人口の12%(2300万人)が亡くなった。歴史を紐解けば、カルタゴもローマも滅亡したが、その時の政府は消滅したかもしれないが、別の形で、新たな行政体・政府機関ができるだけだ。

利害関係者だけが声を上げる

イーロン・マスクさんをはじめ人口減少警鐘論者に言いたいのは皆、ポジショントークではないのかいう疑問だ。

そもそも、私たちが生きていて、我々は何人の人と出会うのだろう? 数えたことはありますか? 1億人と知り合いですか? その人数が何かにおいて重要だったことがあったのだろうか?

人口など、政治家や経営者というエリート層の机上の統計上のお話にしか過ぎない。しかも、「国民」というよくわからない概念である。歩いていて町であった人が「国民」というラベルが張られていないわけだから、目の前の人が何人か、そのうち国民が何人か、というのは普段の生活にとってはそんなに大事なことではない。国籍にとらわれず、国際社会・グローバル社会で生きていけば、考える必要もない数字なのだ。

結局、人口減少に危機感を感じている多くの人は、ポジショントークであろう。意見と立場を見てみよう。

【出典】筆者作成

赤色のカッコが警戒論、黄色のカッコが擁護論というところか。

政治関係者や行政関係者は、人口をもとに仕事が成り立っているから人口減少に危機感を感じるのは当然だろう。人口の右肩上がり前提が覆ると、昭和以来の既存のシステムが成り立たない、仕事がやりにくいという結論にしか過ぎない。「失われた30年」という経済停滞において、「月給で手取り100万円未満であるような議員を多少増やしたって罰は当たらない」という政治家さんが厚かましくも権力の座についている人たちに言われたくないというのが国民の本音だろう。

経済人も一部の人たちだけであろう。経営者なら、国民の数より、大事なのは潜在市場の人口数。対象となる市場を拡大して考えればいいだけなのだ。日本の「規制」のもとでのビジネスしか考えていない経営者だから、「問題」と言えるのだろう。

持続可能な国づくりが大事

個人的には人口減少でいいじゃないか、と思っている。幸福度も低く、自殺数が多く、「友達以外は皆風景」で、「空気」の支配が隅々まで行き渡り、言いたいことも言えない、マスクですら同調圧力で外せない、個人の尊厳すら尊重されているのか、怪しい社会。ツイッターでしか本音を言えない息苦しい社会。しかし、未来は、ロボットもいるし、先端技術で会話ができる動物かもしれない。メタバースもある!

地球環境問題と同様だが、先進国がこれ以上人口を増やしてどうするのだという問題意識を持ってほしい。世界の資源を食い尽くし、発展途上国に成長抑制を強制できない中で、これ以上地球全体の持続可能性に悪影響を与えてどうするのか。資本主義経済がもたらす恵みは素晴らしいが、日本が目指すのは、持続可能な社会モデル、真のSDGsモデルを世界に発信することであろう。

一時的には日本経済は停滞するかもしれないが、どのみち、成熟経済のもとでは、他の国も同じ事態を迎えることになる。火星に行くビジネスを推進している人が望む「破壊された地球」を期待している人はいないはずだ。先史以来、近代は別として、特にこの日本列島は、特に江戸時代、人間が自然と共生してきたことを思い返すべきだろう。