「借り手は弱者」という日本の不動産の不思議

アメリカに保有しているコンドミニアムの管理会社からメールが来ました。10年前に中古で購入した物件の再契約時期が到来したからです。

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購入時に950ドルだった家賃は、既に1,280ドルまで上がっていました。その直近の家賃を更に引き上げることを承諾するかしないかという選択肢が提示されていました。

契約を延長しなければ、退去してもらい別の入居者を探すことになるようです。

新たに提示している家賃は何と1,595ドル。こちらから依頼した訳でもないのに、一気に25%の家賃アップを実現できそうです。

購入時に1ドル=83円だったドル円の為替レートは、今や約130円まで円安になっていますいます。円ベースで見ると、約8万円だった家賃が、20万円までアップしたことになります。

10年間で2.5倍!何ともダイナミックな動きです。

日本の賃貸不動産の場合、管理会社の賃借人に対する対応は対照的です。普通賃貸借契約の場合、借主の権利が強く、契約更新でも家賃を勝手に引き上げることはできません。

同じ家賃で契約更新するかどうかを借主に確認し、更新料を受け取るシステムになっています。

日本国内における賃貸物件の借り手の権利が強く守られているのは「借り手は弱者」という考えが不動産業界の根底にあるからだと思います。

また、不動産を保有している投資家に対する搾取している人たちという偏見や妬みがあるのかも知れません。

しかし、今や日本の賃貸住宅は全国で空室率が30%近くとなり、借主の力の方がむしろ強くなっています。

不動産取引も純粋な経済行為であり、借り手に過剰な保護をするのは、有事に限定すべきではないでしょうか。

実際、コロナ禍のような特殊な状況では、アメリカでも借主の家賃支払い猶予等の対策が取られました。

取引慣行の違いだけではなく、円安も相まって、国内不動産に比べ海外不動産の魅力がより高まっているように見えてしまいます。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2022年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。