ロシアによるウクライナの侵攻、戦争終結の声

ロシアによるウクライナの侵攻が始まって3か月を超えました。日々、様々な報道を通じてその状況が伝えられますが、西側の報道だけでは当然バランスが悪く、実態は日々の戦況に一喜一憂するより、大所高所から俯瞰しないと全体像は見えないのかもしれません。私の個人的感覚としてはウクライナはやや詰まってきた、という気がしています。

この状況の中で日経が2つの戦争終結に関する寄稿を取り上げました。一つは日本でもおなじみのフランス人歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏に対する日経ビジネスのインタビュー記事。もう一つは英エコノミストが掲載し、日経が翻訳した「ロシアの侵攻、終結のシナリオ」。このような記事が出始めてきたということはそろそろ幕引きも意識され始めたということでしょうか?

エマニュエル・トッド氏 Wikipediaより

ロシアは時間をかけてでも目標を達成するという姿勢に対し、ウクライナ側は武器不足に陥っています。それに対してバイデン大統領はウクライナが欲しがる多連装ロケットシステムを提供しないとしています。理由は「飛び過ぎてロシア領に入ったらこの戦いが別の次元に入る」からであります。それはウクライナをそこまで信用していないとも言えるかもしれません。

要するに西側諸国はウクライナを後方支援こそすれど、「飛び道具」は将来のリスクを勘案すれば出しにくいわけです。例えばある国がウクライナに強力な武器を提供し、それが意図するしないにかかわらず、ロシア領にダメージを与えればその武器を供与した国はロシアとの紛争に巻き込まれるリスクが無限に高まることになります。それは避けたい、というのが本音でしょう。

上述のエコノミスト誌の記事のトーンは戦争をなるべく終結させ交渉を開始すべきとする「和平追求派」とロシアを徹底的に攻め上げるとする「正義を求める対ロシア強硬派」の意見の対立を取り上げています。これは主に欧州での対立軸で、例えばマクロン大統領は「欧州は長期的にはロシアと共生する道を探らなければならない」とする一方、ロシアとの国境に近いエストニアの首相は「プーチンを刺激するよりプーチンに譲歩する方がはるかに危険だ」とあります。

ではアメリカはどうなのか、といえば同誌によれば「よくわからない」であります。つまり煮え切らないのです。これが私の指摘するバイデン・アドミニストレーションの弱いところで明白な方向性や決断を打ち出せないのです。

このような現状に対しエマニュエル・トッド氏はどういっているのでしょうか?

「西洋人は、『ロシアは奪った領土からは二度と出ていかないだろう』という現実を受け入れることから始めなければならない」と述べた上で「真の問題、世界の不安定性はロシアではなく米国に起因している」としています。ご本人は自分の考えがメインストリームではないと断ったうえで落としどころは双方の折衷あるべきと考えています。文意からは東部ウクライナの割譲はやむを得ないのではないかというトーンになっています。これはエコノミスト誌のいう「和平追求派」でありましょう。

日本の報道は対中国を念頭にロシア悪=譲歩などありえないという「対ロシア強硬派」的なボイスが主流だと思います。しかし現実問題として戦争を日々続け、多くの命が奪われ続けることに「頑張れ」と本気で言えるのでしょうか?ゼレンスキー大統領は当初から「戦う」と宣言し続けていますが、兵士だけがそれを行うのと一般市民が巻き添えになるのとは別の話だと思うのです。

トッド氏は「ウクライナは国家であることは間違いないですが、健全な国家ではないのです」と記しています。私も少し前のこのブログでこの国はそんなに品行方正ではないと申し上げました。このことは西側指導者は気がついています。故に西側諸国はウクライナを支援するというよりNATOを介して「ロシアの暴発」に備える動きを加速しているのです。これは重要なポイントだと思います。トッド氏は「ロシアの人口を見れば欧州を攻撃しようだなんて、そんな計画をロシアが描いていたはずがありません」と断言しています。

これが正しいなら日本は安易な西側諸国追随は気をつけなくてはいけないのです。日本は何をすべきなのか、地政学的に遠い関係にあるメリットを生かし、日本として冷静な判断をすることが重要であり、「僕も仲間に入れて」ではあまりにも軽すぎるのです。

岸田首相が6月29-30日にスペイン マドリッドで開催されるNATOの首脳会議への出席を検討していると報じられています。私からすれば「なんでそこまで行くのか?NATOと日本をどう結び付けるのか」論理的構築が出来ないのです。まさか、日本がNATOに加盟して何かあった時、アメリカならず、欧州の加盟国が助けてくれるというシナリオを描くのでしょうか?それは今の時点ではやりすぎではないでしょうか?

私は和平追求派です。国境が変わらなかった時代は残念ながらありません。誰もが戦争の後は反省を述べ、指導者は美しい言葉を並べますが、それが守られたこともないのです。そして近年はアメリカがこじ付け理由による介入をすることでより複雑なものしてきたのもまた、歴史であります。

私はウクライナの人々が倒れ、苦境に陥り、街が破壊され、全ての国富が奪われていくのは見るに耐えられないのです。あの国を再生させるには50年はかかるでしょう。民族や所属主義問題はほぼ単一民族の日本にはなかなか理解しがたいものがあると思います。私はプーチン氏が大統領を辞任政界引退をし、ロシアが復興のための資金負担をする交換条件で東部ウクライナの割譲は可能性ある折衷案とみています。もっとも過去の歴史からはそんな約束はすぐに覆されるのかもしれませんが。

だれが講和するのか、トルコのエルドアン大統領とか中立を保つイスラエルあたりになるのか、いずれにせよ大国による講和ではない気もしています。本来であれば日本は講和チームに入れるチャンスがあったと思います。そうすれば国連の常任理事入りすら支持されたでしょう。が、今のポジションではもはやそれは厳しいかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月1日の記事より転載させていただきました。