借金して防衛費を増やしても防衛産業から撤退する企業は減らない

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部品企業撤退、運用に支障も C2輸送機、代替先確保急ぐ―防衛装備庁

航空自衛隊C2輸送機のブレーキなどを生産する企業が今年2月に事業からの撤退を決めたことで、C2の運用面への影響が懸念されている。防衛装備庁は撤退企業の協力を得て、速やかに事業の引受先を探すとしている。背景には衰退への危機感も指摘される防衛産業の実態がある。

油圧機器大手のカヤバは2月の取締役会で、航空機器事業からの撤退方針を決定した。同社は戦前、旧日本軍の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の油圧緩衝脚などを製造していた歴史ある企業。ただ、利益率が低く調達数も少ない防衛産業の厳しい現状にさらされていた。

防衛省幹部は、カヤバの撤退について「氷山の一角だ」として、適正な利益水準の維持など抜本的対策が必要との認識を示した。

多くの防衛関連企業が将来性もない防衛産業からの撤退を決断できずに、問題先送りしている、しかも防衛費を増額しろと安倍晋三や子分の国防族が喚いている中、カヤバの経営陣はまともな人たちで、当然の決断をしたわけです。

自民党の国防部会は防衛産業振興のために、防衛費増やせといっていますが、防衛産業の凋落は政治と防衛省の無能、メーカーの当事者意識の欠如によるところが大きい。そして借金軍拡では途中で長続きはしません。一旦は軍拡しても後になって防衛費が大きく削られることになるのは目に見えています。カヤバの経営陣はそう見抜いたのではないでしょうか。

同社はP-1やC-2の油圧関連のコンポーネントを供給してきました。当初それらは共有化されるという絵が書かれていました。それによって両機合わせて開発費は3400億円に収めます、というのが防衛省と自衛隊の言い分でした。

これは財務省や情弱な自民党の先生方を騙す方便だったと思います。

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【次期輸送機XC-2と自衛隊の川崎重工への偏愛について(中)】――急ぐべきは偵察システム - 清谷信一|論座アーカイブ

XC-2とP-1は同時開発が決定された。この二つの機体は全く別の機体であり、このような開発がおこなわれた例は世界でもほとんどない。だが、防衛省(当時は防衛庁)は二つの機体のコンポーネントを共用化することで開発費、調達費を大きく削減できると主張した。防衛省は機体重量比で約15パーセント、搭載システム品目数で約75パーセントの共通装備部品を使用してコスト削減に寄与していると防衛省は発表している。だが、実はこれも眉唾だ。

XC-2、P-1のアクチュエーターなどを製造しているカヤバ工業は10月に名古屋で開かれた航空宇宙展にXC-2/P-1用のコンポーネントを展示していたが、本来同一のはずのコンポーネントは別々なものだった。機体の特性が異なりすぎて、同一コンポーネントの使用は不可能だったそうである。

所詮無理な共用化と、P-1、C-2、US-2の同時開発結果、P-1とC-2の開発では不具合が続出し、開発費は高騰しました。当然ながら共用化できなかったコンポーネントが増えている。そしてそれはコンポーネント調達単価を高騰させて、整備が膨らむ。

率直に申し上げて当時の技本と空幕、海幕が無能で、国産のおもちゃで遊ぶことだけしか考えていなかったからです。当然ながらP-1、C-2も調達機数が削られました。調達機数が減るということはコンポーネントの調達単価が上がり、これが維持整備をまた圧迫するという無限地獄です。

そもそも自民党国防部会の政治家にも防衛省にも、自衛隊にも、経産省にも、当の防衛産業にも目先の話ばかりで、中長期的に防衛産業をどう育成、振興していこうかというビジョンも覚悟もなかったわけです。

鳴り物入りで作った装備庁は本来中核にすえるべき、改革に前向きな課長クラスの人材を「和を乱す」「現状維持の邪魔」という理由で左遷させてきた。それが現在の装備庁の混迷を招いているわけです。つまり当事者として改革する能力が組織的にない、という話です。

80年代ぐらいまでならば、国産装備が何倍か高く、性能、品質が劣っていても、将来は防衛産業が実力をつけて、自立もして、外国並のコストと性能品質を実現してくれる、よしんば輸出もして外貨を稼いでくれるならば許容できる「投資」だったでしょう。当時であれば財政状況も今のような危機的な状態ではありませんでした。

ところが政治、防衛省、自衛隊、メーカーに当事者能力がなかったために、コマツや住友重機などが散々外国の何倍も高い、低性能、低品質の装備をつくって、税金を食い散らかして撤退しました。

本来防衛産業の再編とか、輸出振興とかは官僚任せではなく、政治の仕事です。それが政治家に能力も問題意識もないのでほったらかしできたわけです。

すでに多くの分野で我が国の防衛産業は、中国、韓国、シンガポール、UAE、セルビア、ポーランド、チェコあたりから大きく遅れており、途上国と言っていいレベルです。ですが自民党の国防部会のセンセイ方は未だに、日本の軍事技術の一等国、みたいな夜郎自大な夢をみています。「夢」をベースに考えているわけですから、まともな政策がでてくるわけがありません。

ですから、今後いくら借金軍拡でカネをつぎ込んでも、それを防衛省は活かすことはできないし、政治家も現実が見えていないで未だに一等国という白日夢をみているので、防衛産業の宿跡も言える体質の改善はなされて、税金の無駄使いで、最後はメーカーが撤退、国の借金だけは残るという間抜けな将来が待ってくるでしょう。

今後まともな企業ほど、防衛産業からの撤退を決意するでしょう。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。