政策を歪める「歴史」

ロシアがウクライナを侵略した理由の一つとして、「プーチン大統領の歴史認識」が挙げられている。これを根拠に「誤った歴史認識」の拡散の危険性、日本では慰安婦や南京事件への歴史認識を批判する声があるがどうだろうか。

プーチン大統領は「誤った歴史認識」を持ったゆえに侵略戦争を開始したのだろうか。「正しい歴史認識」があれば侵略戦争は起きないのだろうか。政府も違えることはないのだろうか。

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そもそも「正しい歴史認識」とはなんなのか。例えば北朝鮮の朝鮮戦争に関する「正しい歴史認識」を受け入れる者は少数派であり多くの人が明快に「誤った歴史認識」と主張するに違いない。

中国の台湾に関する「正しい歴史認識」も受け入れる者は多くないと思われる。同盟国たるアメリカの「正しい歴史認識」特に広島・長崎への原爆投下に関する歴史認識、最近では相当に修正されたと言われるが基本的には我々日本人が受け入れることはないだろう。

歴史認識が国によって異なることは特段おかしいことではなく「正しい歴史認識」なるものは幻想のように思える。

ではプーチン大統領の「歴史認識」を批判することは無意味なことだろうか。

もちろん無意味ではない。

批判すべきはプーチン大統領が「誤った歴史認識」を持ったことではなく「歴史認識」に基づいて政策決定を行ったことである。

プーチン大統領の歴史認識が「誤った」とか「正しい」とかは問題ではない。「歴史認識」なるものがプーチン大統領から現実感を奪ったことが問題なのである。彼は政策と歴史の距離を違えたのである。

政治家・政党の評価法の変革を

「ロシアの平和」「NATOの東方拡大阻止」といった政策目的を達成するためには「ウクライナの軍事力」「NATO諸国のウクライナ認識」を正確に理解することが重要であり、「ロシアとウクライナは一体である」といった歴史認識は些細な話である。

ウクライナ侵略の決定的要因は未だ不明であるが、「プーチン大統領の歴史認識」に着目して推測するならばプーチン大統領はクリミヤ侵略以降のウクライナの軍事力充実やNATO諸国がウクライナの加盟要求を拒否した事実(独仏の反対によって頓挫)を軽視、即ち「ロシアの平和」「NATOの東方拡大阻止」といった政策目的の達成よりも歴史認識を重視したためにウクライナ侵略を決断したのではないか。

「歴史認識>政策目的」の不等式が、プーチン大統領に侵略戦争を決断させたのではないか。

くどいようだが歴史認識の正誤は関係ない。政策目的より歴史認識を優先したことが重要なのである。歴史はある政策目的を達成するための知的「手段」にはなるが「目的」にはならない、

ウクライナ危機により日本では主に防衛費の増強が論じられているが、歴史認識が政策決定に悪影響を及ぼさないよう注意を払うべきである。

具体的なそれは「政治家と歴史学者の交流歴を公開せよ!」「政治家の読書歴に関心を持て!」ということではなく「歴史認識」なるものに議論を主導させない具体的かつ生産的な政策論争文化の実現・定着である。

そのためにも現在の日本に求められる政策は何なのか、その政策を実現するためには何が必要なのか、どのような法令・予算を制定すれば良いのかいった観点で政治家・政党を評価することである。国会で「資本家の犬」と発言するような政治家は評価対象外だろう。政治家・政党の評価法を根本から改めるべきである。