効果が分からない出費が急増する高コスト社会

「費用対効果比」を黙殺する世紀

どの程度の費用をかけ、どの程度の効果(成果)を得ようとするのか。この「費用対効果比」の原則を守らない企業は倒産、淘汰されます。それが国家予算・社会保障、安全保障・防衛、地球環境・脱炭素など、国家や社会全体の問題になると、「費用対効果比」の原則が黙殺される時代です。

必要な金額(コスト)だけが算出され、財源をどう調達するのか、どのような効果(成果)を生んでコストが回収されるのか考えなくなっています。「必要なカネは惜しまずに出す」という原則が多くの国で大手を振っています。日本は最もそれがひどい国なのです。

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日本は危機感が乏しく、財政状態は主要国で最悪なのに、安倍元首相は「国債は国の子会社の日銀が引き受けるから心配はない」と連呼しています。国家が消えることはないとしても、持続可能性を考えたいのです。

本質的な問題は、効果が不透明な出費が安易に増えていく「高コスト社会」になってしまったということです。「高コスト」に見合う経済成長は難しく、経済成長率は低下する。ますますコストの回収が難しくなる。「費用対効果」のタガがはずれ、それを考えなくなりました。

まず国防予算です。ロシアのウクライナ侵略を受け、ドイツはNATO(北太平洋条約機構)が目標とするGDP2%に倍増するために、14兆円の特別資金を拠出する法案を可決しました。日本も同2%(自民党案)に倍増の考えです。防衛力の増強のためのコストが各国経済を苦しめます。

米国は兵器、武器を海外に売れるからまだいい。健全財政だったドイツもまだいい。アベノミクスと称して、平時なのにあまりにも長期間、巨額の国債増発を続け、残高がGDPの2倍以上になってしまった日本です。

日本は5年間で防衛予算を倍増し、単年度10兆円にする。国際的な対露包囲網の一環ですし、日本は対中、対北朝鮮対策でもありますから、回避できるカネではありません。回避できないとしても、「必要なカネは出す」が大手を振って、財源論をまともに議論することはありせん。

防衛力を増強しても、非常事態に備えた地下シェルターもないような日本です。北朝鮮が5日、実験した弾道ミサイルで襲撃されたらどうなるか。大深度の地下鉄の駅構内に退避できたとしても、作戦司令機能を移せる用意はしていません。

中国や北朝鮮の動き次第では、巨額の防衛力、防衛費は無に帰します。何を考えているのでしょうか。「効果」を考えないまま、「必要なカネだから」として「費用」がどんどん膨らんでいきます。

消費税を引き上げ(2%程度)を財源にすれば、国民の負担コストがたちまし上がる。国債を増発しても、いずれは後世代の負担になる。

地球環境・脱炭素化社会はどうでしょうか。その脱炭素化の流れはウクライナ戦争を契機に、逆流現象が起きており、石炭火力が復活しています。それなら日本が得意とする燃焼効率のいい石炭火力発電を冷遇すべきではなかった。そのほうが結局、脱炭素に効果がある。

経団連は「国際目標(2030年)の達成には400兆円の投資が必要で、環境国債(グリーンボンド)の発行を」と要求しています。最大の温暖化ガスの排出国・中国やインドは脱炭素化に熱意がありません。日本はどこまで国際目標に忠実に対応していくのかを考える時です。

再生エネルギーに加え、原発の再稼働、運転時期の延長、さらに石炭火力を維持して対応する。そうした展望を持ちながら「費用対効果」を考えていくことです。効果を考えないまま、費用が先行するのは愚です。

また、財政再建の方針について、政府はこれまでの目標(2025年に基礎的収支を黒字化)を明記することをやめました。「実現不可能な目標になってしまったから外した」というより、「これからも財政拡張を継続する」というところが本音でしょう。

「経済成長によって財政を健全化する」というのが安倍氏らの考えで、岸田首相を押しきりました。財政を健全化できるほどの経済ではもうあり得ません。単なる願望か、口実を述べているにすぎません。

本来ならほとんどの主要国が設置している独立財政機関は、日本が最も必要としています。政治の思惑、駆け引き、利益誘導を一線を画し、財政政策について分析、提言をする独立機関です。

財政拡張派は本来、「独立機関を設置して、効果をチェックしてもらってもいい」くらいのことを言うべきなのです。

そうした機関を持たないまま、政治的願望、歪曲で彩られた財政論は「費用対効果比」を捨て去っています。こうして効果が分からないカネが注ぎこまれ、高コスト社会化が進み、結果として経済の活力が失われていくという悪循環です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。