老後の楽しみで、「昔取った杵柄」宜しく、ギターとコーラスでフォークデュオ(従兄妹の男女)をサポートしている。年に数回、20曲ほどをライブで披露すべく、隔週木曜日の昼間(デュオが仕事休みの日)に3~4時間、地元横須賀のライブハウス(LH)で店の休業日に練習をする。
LHのオーナーは筆者の幼馴染の舎弟で、カウンターだけの中華食堂を夫婦で永らく営んでいるところ、隣のフィリピンパブがPA(音響設備)を残して廃業したのを格安の居抜きで賃借、食堂の馴染み客の大工らの手を借りて改装し、19年秋に開業した矢先、コロナ禍に見舞われた。
が、「人間万事塞翁が馬」、狭い三密カウンターだけでは営業困難になるかも知れぬ窮地を、元は映画館だったLHに料理を運び、こちらで間隔をあけて食事してもらうことで、ここまで何とかやりくりしている。新たに始めた出前や給付金に助けられたのは勿論だ。
そんなある日、練習中に見慣れぬ光景と相成った。椅子とテーブルを端に寄せ、中央のスペースのステージ側と入り口側とに2台(間隔は8m)、跳び箱の踏み台に穴を開けたような板を置き、板の横から「お手玉」を平たく、四角く、大きくしたような袋を、反対側の板の穴に向けて投げ始めたのだ。
「ドサッ、ドサッ」という音で練習を中断、飛び入りで何回か投げてみるが、これが意外に難しい。聞けば「コーンホール」という米国発祥のゲームだった。好奇心旺盛かつ商売熱心なオーナーが、店の宣伝とこの珍しいゲームの普及の一石二鳥を狙って誘致したのだそうだ。
翌週の木曜日には、テレビ神奈川が取材に訪れたとのことで、当日練習のなかった筆者は、YouTubeにupされたその番組に、件のライブハウスとコーンホールがどんな風に映されるか観てみた。見慣れたLHの外観とゲームの様子、後ろのステージにはオーナーのバンドの練習姿があった。
そこで先日の練習日、毎週木曜日に現れては終日ゲームを体験に訪れる客の相手をする日澤準弥さんにコーンホールの話を詳しく伺った。先ずは気になっていた日澤氏の身分だが、頂戴した名刺には「一般社団法人 日本コーンホール協会会長 日澤準弥」とある。
てっきり趣味か何かで、このLHを拠点に横須賀一帯だけでこの珍しいゲームを普及させているのかと思っていたから、この肩書にはちょっとビックリ。
そこで「一般社団法人」について述べれば、それは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づく「非営利法人」で、2名以上の人(社員)で設立できる。社員とは、法人の重要事項を議決する最高意思決定機関「社員総会」に出席し、議決権を行使できる人や法人等を指す。
一般社団法人が行う事業の内容に制限はなく、基本的に、公益的な事業に限らずどのような事業でも自由に行える。また非営利といえども、「余剰利益を分配しない」ことを前提にするなら、「収益」を上げることも、法人内部の「共益」を目的とすることも出来る。
つまり、収益から、法人の役員や従業員に役員報酬や給与などを支給し、その他の経費を計上した後に残った利益を、分配するのではなく次の事業年度に繰り越して事業のために使うということ。要すれば「余剰利益を分配しない」ことが「非営利」たる所以だ。
一般社団法人の設立に特別な「許可」や「認可」は必要なく、公証役場で定款の認証を受け、法務局で登記すれば設立が完了する。ということで、一般社団法人の肩書は理解できた。
では「日本コーンホール協会会長」も自称かといえば、日澤氏はそうではない。米国には3つの団体、即ちその普及を促進しているACA(American Cornhole Association)、プロリーグの統括と大会運営をしているACO(American Cornhole Organization)とACL(American Cornhole League)がある。
この内のACLの認定の下、「日本コーンホール協会」は「ACL Japan」として、日本でのコーンホールの普及活動を行っているそうだ。
日澤氏にお聞きしたコーンホールに纏わる話に触れれば、重さ1ポンドの袋の中身は名前の通り「トウモロコシ」。お手玉は小豆だが古今東西、生活に根差して似た様なものがある。馬蹄投げを原型に、80年前後にシカゴ、イリノイ、インディアナで広まり、オハイオで確立されて周辺に広がったそうだ。
とすれば始まりは恐らく、アメリカの「コーンベルト」で農作業の合間に、布袋にコーンを詰めてそこらの穴に投げ入れたのだろう。ゴルフ発祥説の一つに、スコットランドで牧童が棒で石を穴に転がし入れたと言うのがあるが、そんな感じを想起させる。
屋内でも屋外でも袋と穴の開いた板があれば楽しめるので、屋内ならBarやバーベキューレストランでビール片手に、屋外ならアメリカンフットボールのパブリックビューイングや愛読者週間イベントなどイベントに、必ずと言って良いほどコーンホールが設置されるという。
日澤氏自身、数年前にテキサスでコーンホールに出会い、大勢で簡単に楽しめる、日本人には目新しいこのゲームに魅了され、ACLを説得して一般社団法人日本コーンホール協会を立ち上げたそうだ。この5月にはACLとカンファレンスディレクターとしての契約も取り付けた。
ゲームそのものも、また日澤氏の決断や行動力もアメリカ的だし今風だ。長引くコロナ禍で人心も倦みがちだが、LHのオーナーと日澤氏という行動派コンビの横須賀発の試み(26日に日本初の大会が開かれる)が全国に広がって、目下の日本が少しでも明るくなればと思う次第だ。