コミュニケーション能力とは

「採用に悩む経営者・人事担当者に向けて、採用ノウハウを提供している」あるメディアに、「コミュニケーション能力とは? 4つの要素に分解して考えよう!」(21年2月3日)と題された記事がありました。

その4要素とは、a.意思伝達力=自分の考えを相手に伝える力、b.論理的表現力=筋道立てて説明したり文章にできる力、c.好感表現力=感じの良さを意図的に表現できる力、d.対人調和力=相手の意図や感情を理解し配慮できる力(相手に耳を傾ける力)、とのことです。

上記は特段の論評を要さぬもので、私は本質的な話ではないように思いました。例えば、「もとは禅宗の語で、言葉や文字で表されない仏法の神髄を、師から弟子の心に伝えることを意味した」以心伝心という言葉がありますが、互いに心で通じ合うところまで行くのが、最高のコミュニケーション能力だと思います。

更に言えば私は『心眼を開く』という本を3年半程前に上梓しましたが、正に相手が何を考え何を望んでいるかを心の眼で見ることが出来、また相手の方もその人の表情等からその心を感じ取ることが出来るといったところまで行くのが、最高のコミュニケーション能力だと思います。

例えば品性・徳性が高く、また何となく風格・風韻が漂うような人物は、そこに居るだけで得も言われぬものが相手に伝達されることでしょう。真のコミュニケーション能力とは、無言の内に泰然たる雰囲気等から他人に伝わるものだと思います。

心眼とは辞書的に言えば、物事の真の姿をはっきり見抜く心の働きということです。私流に心眼を解釈すると、此の心眼には次の二つの大きな働き、①自己すなわち自分自身の本当の姿を見ること、及び②自己以外の他を見ること、があると考えます。

夏目漱石の『吾輩は猫である』の中に、「彼の腹の中のいきさつが手に取る様に吾輩の心眼に映ずる」とありますが、此の働きは相手の心を読むということです。此の②の心眼は①の自得がある程度出来るようでなければ、他人の心あるいは様々な物事の真の姿など、はっきりと見られないでしょう。

自得こそが全ての出発点であるとは、明治の知の巨人である安岡正篤先生も説かれている通りです。心の奥深くに潜む本当の自分自身を知るは極めて難しく、人生で色々な経験を重ねて行く中で一つひとつ分かってくるものです。心眼を養うべく自己を徹見・把握し、日々研鑽・努力し続けた結果として、コミュニケーション能力も高まってくるのだと思います。全ては人間力です。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。