看過できない有権者、支援者による政治家へのハラスメント

衛藤 幹子

前回述べた政治におけるハラスメントに関して、もう一つ取り上げたい問題がある。議員あるいは選挙の立候補者が有権者や支援者から受けるハラスメントだ。前回紹介した12人の国会議員インタビューでは有権者によるハラスメントも話題にのぼった。

たとえば、女性議員が遊説中に有権者に足を引っ掛けられて転んだ、罵声や卑猥な言葉を投げつけられた、フェイスブックに性的な書き込みをされた。男性議員からは妻や娘、女性スタッフといった周囲の女性に対する有権者のセクハラが少なくないことを聞いた。

注意をすると、逆ギレされたり、「選挙で落選させてやる」と脅されたりするうえ、被害側も自身や夫、父、ボスの選挙や政治活動への影響を考慮して、公然と非難できず、大抵は泣き寝入りになる。

議員にとっては味方であるはずの支援者からの嫌がらせも無視できない。インタビューのなかでは、出産したばかりで遠出は無理なことがわかっているはずなのに遠方のわずか30分間足らずの後援会の集まりに呼びつける、インフォーマルな支持者のパーティに女性議員が幼い子どもを連れて参加したところ、子連れ参加を事前に了承してもらっていたにもかかわらず、迷惑がられたなどである。

有権者や支援者によるハラスメントの被害に遭う議員はどのくらいいるのか。主に地方政治家(男性100人、女性98人、その他2人;現職195人、元職5人;所属議会の内訳は国1人、都道府県10人、市162人、町村27人)に対する有権者/支持者によるハラスメントの実態を明らかにした「政治家ハラスメント白書(以下、白書)」(ポリライオン/WOMANSHIFT、令和4年2月版)によると、回答者200人中174人(男性82、女性92 )、実に87%が有権者から「何らかのハラスメントを受けたことがある」と答えた。

このうち、「何度もある」と回答した者が男性31%、女性では41%に上った。一方、支援者によるハラスメントは59%、うち何度もあると答えた者は14%であったが、男女差はなかった。男性(元)議員が受けるハラスメントが主としてパワハラなのに対し、女性の場合はモラハラが40%弱と最も多く、パワハラとセクハラは25%程度であった。

前回紹介した内閣府の調査(回答者2,334人)では、同僚議員や支援者、有権者からハラスメント行為を受けたと回答した者は男性32.5%、女性57.6%だった(「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書」令和3年3月)ので、有権者のみに絞ったこの調査の9割近いという結果は正直驚いた。もっとも、ここまで高くなったのは、サンプル数の少なさに加え、年齢構成と当選回数の偏りが影響しているようだ。

議員200名にハラスメントの実態を調査した「政治家ハラスメント白書」を発行
一般社団法人ポリライオンのプレスリリース(2022年2月1日 17時00分)議員200名にハラスメントの実態を調査した「政治家ハラスメント白書」を発行

内閣府調査の回答者は60代以上61%、次いで50代が22.7%であったのに対し、「白書」では30代(33%)と40代(39.5%)が7割以上を占め、60代以上は11.5%と少なく、内閣府調査はもとより、高齢化の進む地方議会の実際の年齢構成ともかけ離れている。年齢構成は当選回数とも関連し、前者が1回から5回以上までそれぞれの割合に大きな差はなかったが、後者は1回(47.2%)と2回(28.1%)が7割以上を占めていた。

若く、当選回数が少ないほどハラスメントのターゲットになりやすい。このハイリスクグループが回答者の多くを占めていたために、9割近くまで数値が上がったと考えられる。また、ハラスメントを受けたことがある人は、そうでない人よりもアンケート自体に関心を持ち、積極的に回答するはずなので、それも高比率の要因であろう。

しかし、見方をかえれば、この調査は若く、経験の浅い議員が容易にハラスメントの被害者になり得ることを再確認させたと言えよう。

有権者や支持者により身近な地方議員と国会議員では事情は異なるかもしれない。しかし、私のインタビューでも示されたように、国政においても有権者/支持者によるハラスメントは決して稀なことではない。実態を把握するための詳細な調査が求められる。

当落を左右する有権者/支持者は、議員(候補者)よりも優位な立場に立つ。この優越性が彼らを破廉恥な行為に走らせるのだと思う。票を持ち出せば相手も黙ると分かったうえでの理不尽極まりない行為だが、議員(候補者)あるいは政党が表立って抗議し辛いことも理解できる。

したがって、個人や政党が個別に対処するのではなく、議会や全政党が一丸となって防止策に取り組むのが望ましい。また、総務省、「明るい選挙推進協会」には、候補者が安心して選挙運動ができるように啓発キャンペーンなど対策を講じるべきだ。政治家の人権が蔑ろにされて良いはずがない。