「最低賃金 < 生活保護費」は本当か? --- 松橋 倫久

先日、ネットで生活保護受給者批判を読みました。端的に言えば、働いている人が、働いていない人よりももらえるお金が少ないのは、おかしいといった内容でした。このことは、本当でしょうか?

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最低賃金法第9条第3項では、「前項の労働者の生計費を考慮するに当たつては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」と規定されています。

私の住んでいる青森県を例に取れば、令和4年6月現在の青森県の最低賃金は、時給822円です。私と同じ年齢(44才)の人が単身世帯である場合、青森県八戸市で受けられる生活保護費は、生活扶助と住宅扶助の合計で月額98,430円です。月に160時間働くと仮定すると、時給換算では615円です。

つまり、現行の最低賃金は、少なくとも青森県においては、健康で文化的な最低限度の生活を維持するために十分な金額が設定されていると言えます。ただし、これは最低限のラインを超えているというだけで、ここでは言及しませんが、最低賃金については非正規雇用と正規雇用のバランスは取られるべきだと考えています。

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生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障するものです。この保障は、働いている、働いていないにかかわらず、保障されるものであると理解しています。現に障がい者で、働いているけど生活保護費まで届かないので、生活保護費から稼いだ額を引いた差額を給付してもらっているパターンもあります。高齢者でも年金が少なければ、生活保護費との差額を給付してもらうということがあります。

そういう意味で、生活保護の規定は、本来働いている人にも不利にならない規定のはずなのです。どうして不満が出るかといえば、生活保護へのアクセスのしにくさという問題があるのではないでしょうか?

生活保護制度は入りやすく出やすい制度であることが理想です。生活保護を受給した人が、疲れを癒やし、職業訓練を受け、再度生活を立て直すことを支援することが目的です。

予算が十分に取れないということがあると思いますが、現状ではなるべく生活保護を受給させないようにしようという圧力が働いているのではないでしょうか? そういった、働いている人や若い人が受給できにくい空気を、まずは変えていかなければならないのではないでしょうか?

「迷惑を掛けないようにしろ」といったことを言ったり書いたりする人もいますが、それなら政府の存在意義は何なのでしょうか? 国防や外交だけやっていれば、合格点なのでしょうか? 国防や外交は大事ですが、国民が幸せに生活することも同じくらい大切なことではないでしょうか?

今回は生活保護費を単身世帯で計算してみましたが、子供がいたりすると生活保護費は増えます。そうなったときに、生活保護費の方が多じゃないかという指摘はありうると思います。生活保護受給者と最低賃金付近で雇われている労働者との間に分断ができてしまっています。生活保護費の一部受給という形態が広がれば、両者にできた溝も少しずつ埋まっていくのではないでしょうか?

ここでは財源を示していませんが、財源がないなら今支出している項目の中で優先順位をつけなければなりません。たとえば道路の補修と生活困窮者を支援するのと、どちらを優先するか? 道路の方が大事だという人もいるかもしれません。そのことは、議会でしっかり議論されるべきと思います。選挙を通して、有権者は意思表示をすることができると思います。

松橋 倫久
1978年青森県生まれ。東北大学経済学部を経て、青森県庁奉職。在職中、弘前大学大学院を修了。統合失調症の悪化により、2016年青森県庁辞職。現在は療養しながら、文芸の活動をしている。