「原潜保有」議論、国民・玉木代表が党首討論を一歩リード

国民民主党の玉木代表は6月14日、「日本が原子力潜水艦を保有し、適度な抑止を働かせていくということも具体的に検討するべき」と、安全保障政策に関する自身の見解を表明しました。

「保有の是非」は慎重に考慮する必要がありますが、「検討すべき」との発議は、国際情勢の変化を考慮すれば適時適切な提言です。実際この発言への反応として、直後にニュース記事を配信した報道機関も多く、更に19日には『日曜報道THE PRIME』(フジテレビ)の「党首討論」における重要論点の一つとして「原潜保有の是非」について玉木代表の指名から始まる議論が展開されました。

razihusin/iStock

選挙戦突入に際し、防衛政策に関して野党側から建設的な議論が提案され主要な争点の一つとなったことは特筆に値する動きでしょう。この玉木提言が、選挙後も国防議論の深化につながるのかどうか、引き続き注目して行きますがまずは状況認識を整理しておきたいと考えます。

16日の報道(新聞とインターネット配信ニュース)

報道各社が玉木発言を報じました。一例としてNHKニュースを確認します。

国民 玉木代表 “原子力潜水艦の保有 検討すべき” 考え示す

エラー|NHK NEWS WEB

玉木氏は、安全保障政策をめぐって、「例えば『敵基地攻撃能力』と言っても、金額ばかりが先に踊っていて、具体的にどのようにわれわれの抑止力や、反撃力を高めるのかという議論がないのが問題だ」と指摘しました。そのうえで「今いちばん想定される攻撃は潜水艦発射ミサイルだ。日本が原子力潜水艦を保有し、適度な抑止を働かせていくということも具体的に検討するべきであり、党内でも議論を進めていきたい」と述べました。(6月14日NHK NEWS WEBより引用、太字は引用者)

19日地上波での党首討論

この“玉木発言”を受けて『日曜報道THE PRIME』(フジテレビ19日)の「党首討論」では、『原潜保有』に関する各党党首が見解を表明する時間がありました。

そのシーンでは、既に原潜を保有する米英仏中露印に加え、オーストラリア・韓国・北朝鮮も「計画中」とし、原潜保有(計画中を含む)国に囲まれる日本という地図が背景におかれました。各国の抑止がせめぎあう要点に位置しながら、日本だけが保有していない状況が浮き彫りになる無言のメッセージを発信しつつ、各党首の賛否を問う構成でした。

賛成は3党(国民・維新・N国)、反対は6党(自民・公明・立憲・共産・れい新・社民)でした。ここでは詳細の分析検証はしませんが、与党では自民が、野党では国民だけが「ああ、この党首は深く知っていて検討も始めている」と感じさせる話しぶりでした。

特に玉木氏が「まずは索敵能力、そのためには衛星など総合的な能力を…」と発言するなどその主張の深みも感じさせた一方、他党の一部には不勉強な印象を抱きました。

辛辣に過ぎたら申し訳ないのですが、率直に申し上げて一部の野党党首は「国民から国防を託され防衛政策を議論するメンバー」でありたいならば、もっと国防を深く研究する余地があると考えます。

攻撃型原潜保有の議論の前に

具体的な「原潜保有議論」を扱う前に、抑止論を考える際に重要な観点を得るために、ある記事を参照致します。会員制月刊誌『公研』が公開した記事(2021年11月号)『抑止力とは何か? 日本が直面する安全保障環境』(高見澤將林氏と村野将氏の対談)です。特に村野将氏(ハドソン研究所研究員)は日米防衛協力に関する政策研究の専門家ですが、彼の言葉が今回の議論を考えるうえで大いに役立ちます。

昨年末ごろの記事ですが、村野氏が今回の『原潜保有』検討にも大切な視座を提供しているので、その議論を参考に重要な視点を抽出します(同記事上で展開されている議論の正確な内容は、必ず記事原文をご確認ください)。

【防衛力整備を考える際の要点】

  1.  最初に「どのような目的を達成するのか」を考える
  2. 相手の戦力態勢や運用ドクトリンを徹底的に分析評価する
  3. 具体的な危機シナリオを決める
  4. セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)を構築する
  5. 不足している能力を優先的に埋めて行き防衛力を整備する
  6. 発想する際に留意すべき点は、個別のプラットフォーム・ベース(戦闘機・ミサイルなど)の考え方に留まらないこと

日本の防衛力整備に欠かせない観点

「原潜保有」に対する防衛政策上の評価については専門家も交えた議論に期待します。そのうえで、前項で得た各視点をもとに、国民玉木代表の提案と既存の防衛政策論とを比較します。また海洋を舞台とした戦略を考える際には、他党の政策よりも戦前の日本が実際に採用していた国防政策(のうちの海軍)のほうがより参考になるので、それらを比較します。

玉木代表の「最も憂慮すべき現実的な脅威は潜水艦から発射される核搭載ミサイル(SLBM)」という前提条件(仮説)の設定は、確かに重要な指摘だと考えます。しかし、そこから「ゆえに攻撃型原潜を保有すべきだ」という結論には、やや論理の飛躍を感じます(肯定も否定もしません)。

建造費が数千億円から一兆円という原潜を数隻持ち打撃力を充実させることのメリットデメリット、あるいは通常動力型の潜水艦部隊の規模を拡大したり探知能力を高めたりする他の装備との比較など、考察すべきポイントは豊富に存在するのでいきなり判断はできません。

確かに過去の日本においては原潜保有の意義は高くありませんでした。その大前提に「圧倒的な米軍のプレゼンス」と「専守防衛」政策があったからです。日本が「楯」として専ら防衛にあたり、米軍が「矛」として反撃するという役割分担の考え方です。

しかし仮に現時点ではまだ米軍が優位を保っているとしても、10年から20年後を想像するならば、景気変動等の不確定要素次第では米軍と日本の自衛隊を合わせても脅威に対抗しきれない可能性もあると考えます。原潜の開発と更新で巨額の費用がのしかかる米国も、同盟国日本の合力は拒絶しない可能性も少なくないでしょう。

またロシアによるウクライナ侵略が示した現実は「『専守防衛』がもたらすのは大惨事と国土の荒廃」という実相でした。「圧倒的に優位な米軍の存在」を前提とする「専守防衛」政策は、もはや幻となった可能性が高いのです。

仮にそうであるならば、日本が今なすべきことは、「『専守防衛』を前提として蓄積してきた各種の戦略を学習棄却し、新たな現実的を正視して、それに対応する国防政策を打ち立てること」ではないでしょうか。

まとめ

「原潜保有」というテーマに関して、専門家を交え与野党で真に意味のある議論が行われること、そして「結論ありき」ではなく「100%政治的駆け引き」でもない論理的、理知的、純国防論的議論を期待しております。

堂々たる論陣を張り、政権の座を争う力のある野党が存在してはじめて、政府与党側にも緊張感が生じ、結果として日本の政治が活力を取り戻すのではないでしょうか。