食べログ評価に見切りをつけるとき

関谷 信之

焼肉チェーンを展開する株式会社 韓流村(以下 韓流村)が、食べログを運営する株式会社カカクコム(以下 食べログ)を訴えた裁判は、韓流村側の勝訴となりました。東京地裁は、食べログ側に3840万円の賠償を命じています。

チェーン店不利に「食べログ」アルゴリズム変更、評価落ち減収…優越的地位の乱用で賠償命令

チェーン店不利に「食べログ」アルゴリズム変更、評価落ち減収…優越的地位の乱用で賠償命令
【読売新聞】 飲食店の口コミサイト「食べログ」が店の評価を計算するアルゴリズムを変更したため、評価点が一方的に引き下げられたとして、焼き肉チェーンの運営会社「韓流村」(東京)がサイト運営会社「カカクコム」(同)に約6億4000万円の

カカクコム プレスリリースより

チェーン店だから評価を下げられた、と訴えた今回の裁判。食べログの評価点は、

「利用者の評価だけを集計したものではない」

ということがはっきりしたのが最大の功績です。飲食事業者からすれば、「あぁ、やっぱり」、というところではないでしょうか。

今回は、グルメサイトなどの「評価」について考察します。

食べログへの不満感

そもそも、飲食店は、食べログなどグルメサイトに大きな不満を抱いていました。負担が大きすぎるのです。

1万円~10万円の月額料金。グルメサイト専用に席を確保する「予約在庫」による機会損失。自店負担の割引クーポン。そして、予約1件ごとに発生する200円の予約手数料(送客手数料※1)など。

飲食店の営業利益率は高くありません。しゃぶしゃぶ・日本料理大手の木曽路(株式会社木曽路)の、コロナ以前の営業利益率は「3%」(2020年度)。コロナ以降は営業赤字が続いています。

対して、食べログを運営するカカクコムの営業利益は「45%」(2020年度)。コロナ後も「36%」(2021年)、「37%」(2022年)と順調に利益を獲得しています。業種が違うとはいえ、利益差がありすぎる。

この利益差に加え、今回の判決で、さらに不満感が高まることでしょう。

食べログの評価点算出方法

食べログの評価点は、飲食店利用者(レビュアー)の評価(以下 クチコミ評価)の「平均」ではありません。影響度によりレビュアーの重み付けを変え「加重平均」しています(※2)。問題は、

  • 「加重平均」以外の、評価点算出方式(アルゴリズム)が不明瞭なこと
  • 有料プラン(1万円~10万円)が存在していること

です。有料プランに加入しないと、評価点を低くされてしまうのではないか?という疑念が生じます。

公正取引委員会が2020年3月に、事業者に対し実施した、グルメサイト実態調査では、

有料プランをやめて無料会員になったら評価点が大きく下がった」
「コメントも味も全く変わらないのに、有料プラン契約をしたら、評価点が0.5ポイントも上がった」

など、不満や疑問が寄せられました(※3)。

「チェーン店だから」という、クチコミ評価以外の要因で、評価点を下げることがある。そのことを、はっきりさせた今回の裁判。判決を踏まえ、テレビの報道では

「今後は、インスタグラムなどSNSや、Googleマップへのシフトが加速するだろう」

と、予測するコメンテーターや解説者が散見されました。では、Googleマップの評価は信頼できるのでしょうか。

評価が不自然に高いカフェ

先日、あるカフェでトーストランチをいただきました。

少しパサついたパン。やや固めのベーコン。薄いカフェラテ。貧乏舌の私の評価は5段階で「3」(うん。リピートはないな)。ところが、Googleマップのレビューは軒並み「5」。全体評価も「4.7」と、とても高い。なぜ? 理由は、会計時の店員の説明でわかりました。

「Googleマップにレビューを投稿して、スマホの画面を見せていただくと10%割引します」

口コミ投稿を求めるカフェのスタンプカード(右下の黒い箇所はQRコード)

なるほど。店員に見せるとなれば、悪いレビューは書きにくい。この効果は大きいようで、Googleマップには、軒並みべた褒めのレビューと高い評価点が。

努力の方向が間違っている。

そう思います。この店のランチの客単価は、1000~1500円。割引いた10%分=100円を、材料費にまわし、食パンを1ランク上のものにすれば、どれだけ美味しくなることか。どれだけ、リピート客が増えることか。

もともと、クチコミは制御できないもの。いや、制御してはいけないものです。制御は「不正」につながりがち。このカフェの行為も、Googleでは規約違反です。もし、こういった「不正」が、利用客に知れ渡れば、評判はがた落ちになる。リスクも大きいのです。

アルゴリズムを推測するという「努力」

今回の裁判で、

チェーン店の評価を一律に下げるアルゴリズムが導入されたのではないか」

と推測したのは、原告(店側)の韓流村でした。

株式会社韓流村プレスリリースより

相当の努力がうかがえます。問題発生以前から、食べログの評価点を記録し、自社と競合他社の比較分析に多くの時間をかけていたことでしょう。しかし、その努力を、商品開発やサービスに充てれば、どれだけ顧客満足度が向上するか。

消費者は賢いです。グルメサイトなどの評価点は、あまり参考にせず、「宣伝」の一種と、認識を変えつつあります。こういった評価に、見切りをつけるには良い時期ではないでしょうか。

努力は、本業の商品やサービスに注いでほしい、と思います。

【注釈】
※1 送客手数料 ディナーの場合 ランチの場合100円
※2 点数・ランキングについて[食べログ]
※3 飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書(公正取引委員会)